話題:SS



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【前夜譚・木曜日の夜】

明日は待ちに待った二日ぶりの休日。という事で、深夜、録画が溜まっていたNHK朝の連続テレビ小説「ちゅらさん」をまとめて視聴。いつもより夜更かしの午前2時に就寝。明朝は早起きしなくても良いので大丈夫。余裕余裕。

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【金曜日】

午前3時、竿竹屋の声で目を覚ます。こんなに朝早くから、随分と仕事熱心な竿竹屋だ。感心しつつも起きるにはまだ早いので再度眠りにつく。

午前3時半、焼きイモ屋の声で目が覚める。この季節に焼きイモとは珍しい。驚きながらも起きる時間ではないので再び目を閉じる。

午前4時、豆腐屋のチャルメラの音で目が覚める。郷愁をそそられるが、正直まだ寝足りないので再び目を閉じる。

午前4時半、チンドン屋の笛と太鼓で目が覚める。この時代にチンドン屋は貴重だ。ちょっぴり嬉しくなるも、まだ起きる訳にはいかない。再び目を閉じる。

午前5時、大名行列の「した〜に〜したにっ」の声で目が覚める。恐らく江戸時代からタイムスリップして来たのだろう。家の前の通りは鎌倉時代から続く旧街道なので時々こういう不思議なものが通ったりする。表に出て大名を見てみたい気もするが、朝っぱらから道で土下座するのも切ない話なので、そのまま再び目を閉じる。

今日は会社の創立記念日につき仕事はお休み。こういうスペシャルな日は、昼過ぎぐらいにアクビをしながら、のこのこと起きるのが理想的な一日の始め方だ。さあ、このまま昼すぎまで眠るぞ。

午前5時半、ガシーン!という巨大な衝撃音で目が覚める。カーテンを開けて窓から外を眺めると、家の前の通りにアダムスキー型のUFOが墜落していた。いや、墜落ではなく不時着しているだけかも知れない。好奇心をそそられるも、迂闊に近寄って体に変な金属のチップを埋め込まれるのが怖いので見て見ぬふりを決め込んで再び目を閉じる。

午前6時、玄関のチャイムの音で目が覚める。こんな朝早くから誰だろう、訝しく思いながら玄関のドアを開くと、頭まですっぽり隠れる銀色(ラメ)の全身タイツに身を包んだ透き通るように肌の白い碧眼の若い女性が立っていた。頭からは先っぽが小さな球状になっている二本の触覚が飛び出ている。子供の頃、宇宙科学図鑑に載っていた金星人にソックリだ。

「どちらさまで?」。

「金星人です」。

やはり金星人だった。もはや疑う余地は無い。

「何の御用で?」

「故障したUFOを修理したいので、プラスのドライバーとガムテープを貸して欲しいのです」

「お安い御用です」

工具棚から所望された品を取り出して金星人に渡す。その際、互いの指先が軽く触れ、二人で顔を赤らめる。貴女も純情。私も純情。純情きらり。指先から始まる恋があってもいい。そんな事を思いながらも、まだ起きたくないので布団に戻り目を閉じる。

午前6時半、ゴォォォー!という重低音で目が覚める。窓から外を見ると、UFOが回転しながら地面から少し浮き上がっている。どうやら無事に修理が終わったようだ。点滅しながら飛翔したUFOが朝焼けの空に消えるのを見届けた後、安心して再度眠りにつく。

午前7時、またしても玄関のチャイムで目を覚ます。ドアを開くと、先程の金星人女性が立っていた。

「ドライバーとガムテの残りを返し忘れていました」

「ああ、別に良かったのに…」

「そんな…ダイヤモンドより貴重なガムテを頂くなんて事…とても出来ませんわ」

どうやら金星ではダイヤモンドよりガムテープの方が貴重らしい。本当、物の価値など曖昧なものだ。彼女からドライバーとガムテの残りを受け取り、再び就寝。さあ今度の今度こそ昼まで寝るぞ。

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午後7時、自宅の玄関前で目が覚める。何故私はこんな所で眠っているのだろう。しかも、何時の間にか午後7時になっている。鍵を出す為ポケットに手を突っ込むと、見覚えのない紙切れが一枚入っていた。紙切れは便箋で美しい菖蒲の姿が和彩で描かれていた。

―こうして貴方の記憶を消去せざるを得なかった事、どうぞお許し下さいませね。金星で貴方と二人共に過ごした3年間は、私にとって夢のような時間でした。モチャルンパの木陰でヘミャヘミャを食べた時の貴方の笑顔を、私は生涯忘れる事は無いでしょう。それでは、お体を大切に、いつまでもお元気で…。

金星人マヤ。

追伸…ポルッカプネプネはヒョーショージョーモノですよ(笑)―



便箋を読む限り、どうやら私は金星に行っていたようだ。それも3年間。しかし、その記憶は消され、金星へ飛び立つ前の日付、時間に運び戻されたのだろう。

書かれている内容は今となってはチンプンカンプンだが、恐らくそういう事があったに違いない。

便箋が夜風に切なく薫っていた。

仕方ないので、今日の日記は記憶が消される前の午前7時迄をメインに書く事にする。

それにしても…

眠い。

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残すところは土曜と日曜の二日分。それはまた明日以降のお楽しみという事で♪(o^−^o)