話題:のんびり



ある暇な夜。あまりにも暇すぎて、にっちもさっちも行かなくなっていた暇人28号は何となく手近にあったトンカチで暇の一つを試しに潰してみる事にした。すると、暇はペカっと音をたててぺちゃんこになった。なるほど、いかにも暇らしい空虚な音だと暇人は思った。

暇人28号の暇レベルは現在49。コツコツと暇を積み重ね、此処までレベルアップしたのだ。彼ぐらいのレベルになると暇という“概念”が現実の“物”として物理的に眼で捉える事が可能となってくる。暇人28号の目に映る暇はシャボン玉のような形で空間を漂っていた。

暇人28号は暇に任せて、暇と云う暇を片っ端からトンカチで潰して行った。ある暇はホヘっと音をたてて潰れ、またある暇はフハっと音をたてて潰れた。暇にも色々と種類があるのだ。

暇人がちょうど青いシャボン玉の暇を潰したところでメールの着信音が鳴ったので見てみると、それは友人のM君からで「暇ならメールください」となっていた。

暇人はメールを返さなかった。

暇を潰すので忙しく、とてもではないがメールを返す暇など全く無かったのだ。

すると、何処からともなく間の抜けた音がして暇人28号のレベルが49から50へと上がった。恐らくメールを返さなかった事が暇レベル的には吉と出たのだろう。

そして、レベルが50の大台に乗った瞬間、暇人の目に映るシャボン玉(つまりは具体化した暇)に大きな変化が起こった。

どういう変化かと云うと、各シャボン暇玉の上部に貼り付けられているタイトルの存在が視認出来るようになったのだ。それは、レベル49までは全く見えなかった物だ。

暇人28号は、ウルメ鰯のようなウルウルした瞳で各シャボン玉のタイトルを読み上げた。

「冷蔵庫の中の整理」。

なるほど。これは、冷蔵庫の中の整理をすべきところを怠った事により誕生した暇に違いない。暇人28号はそのシャボン玉をタイトルごとトンカチで潰した。


「F君への年賀状」。

年賀状を出し忘れた事による暇。勿論、すぐさまトンカチで潰す。

「男のイタリア料理三ツ星レシピ」。

買うだけで満足してしまい、コタツコの高さを調整する為、コタツの足の下に敷かれている本だ。トンカチで潰すと“ボーノボーノ♪”と音がした。

暇には暇で歴とした誕生の由来がある事を、この夜、暇人28号は知った。

しかし、タイトルを見てもイマイチよく意味の判らない暇も数多くあった。

「駄菓子の店先に置かれていた新幹線ゲームの緊張感」。

「プロフェッショナルな薄氷の踏み方」。

「ジャパネットのたかた社長の声の高さがMISIAを超える日」。

この辺のタイトルを持つシャボン暇玉の意味は、正直よく判らなかった。

暇人28号は静かに決意してちた。もっともっと暇人レベルを阿下なければ…と。

暇道はまだまだ奥が深い。

暇人の行く道は果てしなく遠い。
だのに、何故、歯も磨かずに
暇を潰すのか、
そんなにしてまで…。


さてさて、色々とやらなきゃならない事は山積みなのだけども…

取り敢えず、布団に入って考えよう。

【暇人の格言@】

『取り敢えず、寝るか』。



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さてさて、皆様…

暇は潰せましたでしょうか?

フフフ…。

〜おしまい〜。