【オツカレサマ公園】は乙枯町(おつかれちょう)の中にある、とても大きな公園です。

この公園は名前の通り、様々な理由で疲れ果ててしまった人達が何処からともなくフラフラと集い寄り合う、疲労と困憊の《寄せ鍋フレンドパーク》です。仕事に疲れた人もいれば勉強に疲れた人もいます。恋愛に疲れた人、果てには特に何にもしていないのに何故か疲れている人まで、オツカレサマの理由も人それぞれです。

そんな【オツカレサマ公園 】で交わされる言葉はただの一つだけ。

『オツカレサマデス』

朝も昼も夜も、出会った時も別れる時も全てそれ。でも、此処の人たちにはそれで十分だし、それ以上気の効いた言葉を考えるだけの思考力も持ち合わせてはいないのです。

そして【オツカレサマ公園】の人達は皆一様に同じ服装をしています。ねずみ色のジャンパーに赤地に白い二本線の入ったジャージのズボン。疲れた顔にとてもよく似合う定番の“くたびれコーデ”です。この公園に足を踏み入れた瞬間、着ている服が魔法の力で変化して強制的に全員が同じ服になってしまうのがその理由。嬉し恥ずかし、ペアルックに憧れるお年頃ですね。

…そう聞くと、何だかこの【オツカレサマ公園】、随分と暗鬱で気分の湿りがちな場所のように思えてしまうけれども、それはとんでもない勘違いで、実はこの公園、そんなオツカレ人たちを癒して回復させる、滋養と強壮のパワースポットなのです。

公園の真ん中にある噴水からは24時間止めどなく豚汁が噴き出していて、誰もが無料で飲めるようになっています。勿論、噴水の水が豚汁なのは冬場だけのお話で、夏場にはちゃんとメロンソーダに替わります。春と秋は、豚汁とメロンソーダの爽やかミックスジュース汁です。

【オツカレサマ公園】では、たくさんの露店商がゴザを並べて商売をしています。

露店本屋には、太宰治や萩原朔太郎、夢野久作、埴谷雄高など、いかにも元気の出そうな本がズラリと列べられています。

露店だけではありません。公園の奥には百均ショップもちゃんと軒を構えていて、お握りやジュース、お弁当やスナック菓子など、どんな商品も一律[100ユーロ]で買う事が出来ます。

公園の奥の朝礼台に置かれているラジカセからは24時間《ラヂオ体操》の音楽が流れていて、誰でも好きな時にラヂオ体操を楽しめるようになっています。

疲れた体にラヂオ体操と云うのも酷なように思えますけど、そこは大丈夫、テープの再生速度が通常よりも約20倍の遅さなので、どんなオツカレサマも無理なく…一説には遅い方が逆にキツいと云う話もあるにはありますが…マイペースで体操を行う事が出来るのです。


日々の暮らしに疲れてしまった方は、是非一度、【オツカレサマ公園】にいらしてみて下さい。

乙枯町は地図には載っていない町ですけど、貴方が真の“疲れ人”ならば必ずたどり着けるはず。

合言葉は『オツカレサマデス』です。

疲れが完全に癒えて公園を出た暁には、夢にまで見た【ハッスル横丁】が貴方の到着を今や遅しと待っています。ハッスルまで3マイル。


愛と憩いの脱力園【オツカレサマ公園】を目指す際は、どうぞ、円ではなくユーロ札をご用意下さいますように…。

PS.

疲労が回復して公園から出ても服は元に戻らず、ねずみ色のジャンパースと赤地に白二本線のジャージのままなので、お越しの際には、なるべく、どうでもよいダサい服装でお越し下さい。