話題:SS


無機質の時間が流れる乏しい色の空間、麹町署の取調室で、容疑者の若い男は机の上に並べられた十六枚の写真に視線を落とした。

取り調べを担当する町村警部は、僅かに開けられている鉄格子つきの小窓を背に、写真を見る容疑者の反応を伺った。

並べられた十六枚の写真は、今回の事件(ヤマ)である【連続窃盗事件】における盗難品を写した物だが、そこには全くと云って良いほど“統一性”が欠如していた。

写真に目をやりながらも相変わらず沈黙を続ける容疑者に対し、町村警部がやや気軽な口調で話し掛ける。

『なあ…この脈絡のない写真、お前さん、どう思う?』

何時の間にか相手に対する呼び掛けが“お前”から“お前さん”に変わっている。これは、フランクな雰囲気を作り出し、多少なりとも容疑者の気を緩ませようと云う、町村の心理的作戦に違いなかった。

しかし…

『………』

当然の事ながら、この程度の揺さぶりで口を開く相手ではない。町村も、それぐらいは承知している。だが、今はどんな事でも試してみる他ないのだ。

『こんな物を盗み集めて何しようってのか、俺にはサッパリ解らん。あ、そう云えば…昔、ガラクタを集めて溶接して変なオブジェみたいなの造る“ゲージツ家”とかいう見た目のごっついオッサンが居たな…タモリの番組によく出てた…名前何てったっけ?…トラさんじゃなくて、ゴリさんじゃなくて…お前さん、覚えてないかい?』

『………』

饒舌を続ける町村だったが、いずれも空振りである。もしこれが野球であれば、とっくに空振り三振バッターアウトだろう。それでも、バットを振らなければ球には当たらない。この容疑者は、黙っていても四球で自滅してくれるノーコン投手とは違うのだ。とにかく、今はバットを振り続けるしかない。

『思い出した、クマさんだ。篠原ナンチャラとかいう。…これ盗んだヤツも、そういう素人にはよく解らん“オブジェ”みたいなアート?ってやつでも造るつもりなのかな?』

『………』

やはり反応はない。

小窓から流れ込む外気に肌寒さを感じた町村は、静かに窓を閉めると改めて容疑者の向かいに座り直し、机の上の“写真集”に目をやった。

並べられた十六枚の写真の間には、どう考えても繋がりらしきものは見受けられない。


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