話題:童話

「それに…」

アラン・ベネディクトの手のひらの上でキラキラと輝き続ける【不思議な落としもの】を見つめながらラマン巡査が云いました。

「それに…温もりや輪郭だけでなく、この“キラキラした球”には、よく見ると七色の色彩を持っているのです」

「七色ですか…まるで虹みたいですね」

「ええ、まさにそうなのです。何と云うか…雨上がりの空に架かる虹を集めて万華鏡に閉じ込めたみたいな…」

それは勿論、アランに向かって云った物でしたが、意外な事にその言葉に反応を示したのはマルグリット夫人でした。

「あらっ、それもしかして…【虹泥棒の万華鏡】という物語では?」

驚いたのはラマン巡査です。【虹泥棒の万華鏡】は彼がまだ幼い頃、母親に寝物語で聞かされていたお話で、今日この日まですっかり、その存在すら忘れていたものです。よもや、それを知っている人物に出逢えるなどとは夢にも思いません。

「そうです、そうです!虹泥棒の万華鏡。私はこの“キラキラした落としもの”を覗いた時、その物語を思い出したのです。いや、まさかご存知とは…」

珍しく少し興奮気味に話すラマン巡査に軽く気圧された感じでマルグリット夫人が答えます。

「いえ…私も、巡査さんの今の言葉で急に思い出したの。【虹泥棒の万華鏡】は息子がまだ小さい頃、ベッドの中でよく読み聞かせたお話で。このお話を読んであげると、寝つきの悪かった息子が不思議とすんなり眠ってくれて…」

夫人の語る話はラマン巡査の場合とは状況的に逆ですが、同じと云えば全く同じだとも云えるでしょう。

ラマンは、これぞ機会とばかりに【虹泥棒の万華鏡】の結末を尋ねてみる事にしました。ところが…

「ああ…先ほどお話しした様に、いつも途中で息子が寝てしまうものですから…結局、私も最後まで読んだ事がなくて」

マルグリット夫人も“その結末”は知らないと云うのです。ラマン巡査の期待は、風船の空気が抜けてゆくように萎んでゆきました。

どうやら、マルグリット氏とアラン・ベネディクトは【虹泥棒の万華鏡】の話は知らないようでした。

いったい…読み手も聞き手も結末を知らない、この【虹泥棒の万華鏡】とは、どんな物語なのでしょうか?


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