話題:童話

「コレが、その“落としもの”なのですが…」

そう云いながら、ラマン巡査は小脇に抱えていた小さなスチール製の缶箱を前に出した。

「えっ?…落とし物ってキャンディなんですか?」

アラン・ベネディクトがそう思うのも無理はない。と云うのは、ラマンが差し出したのは紛れもなくキャンディの缶箱だったからです。

「あ、いや…そうではないのです。この箱は、たまたま交番にあった物を使っただけでして」

【キラキラした落としもの】を入れるのにキャンディの缶箱を選んだ事に大した理由はありません。ただ、この“不思議なもの”が壊れやすい可能性を考え、なるべく頑丈そうな入れ物を探した結果、キャンディの缶箱に行き着いたと云うだけの話なのです。まさか、マルグリット氏のように上着のポケットに突っ込むわけにもいきません。

ラマン巡査の交番の机の上には常にキャンディの詰まった缶が置いてあります。それは一見すると不謹慎にも思えますが、実はそうではないのです。このキャンディは、交番を訪れる子供たちの為に用意された物です。

迷子になって泣いている子供や、お使いの途中で財布を落として落ち込んでいる子供の気持ちをほぐすのに、キャンディはちょっとした働きをしてくれるのです。このアイデアは、ラマン巡査がこの街に赴任した時に思いついたものでした。

この街での勤務初日…もう二十年も昔の事です。ラマンの交番に小さな女の子が泣きながら一人で入って来ました。その子はどうやら迷子のようでした。ラマンは女の子に名前と住所を訊ねましたが、女の子は、ただただ泣きじゃくるばかりで、一向にラチが明きません。

途方に暮れ掛かっていたラマンでしたが、その時にふと、たまたまプライベートで買って持っていたキャンディの事を思い出したのです。そこで、私物入れの鞄から“キャンディ”を取り出して女の子をあげたところ、効果てきめん、女の子は徐々に泣きやみ、名前と住所を話してくれたのでした。

そして、その時以来、ラマン巡査の交番には、カラフルなキャンディがたっぷり入ったスチール缶の箱が置かれるようになったのです。

もちろん、ラマンのポケットマネーから出されています。ラマンはこの日、マニュアルには載っていないけれども、とても大切なものを学んだような気がしたのでした。


今は【キラキラした不思議な落としもの】が入っているピカピカしたキャンディの缶箱を差し出しながら、ラマン巡査はそんな事を懐かしく思い出していました。

しかし、それは時間にしてみれば“ほんの一瞬の回顧”です。

そして、マルグリット夫妻とアラン・ベネディクトの視線が注がれる中、いよいよラマン巡査はキャンディの缶箱の蓋に手を伸ばしたのでした…。 



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本当は今日完結する予定でしたが…

話が思わぬ横道にそれてしまいました( ~っ~)/

さて、明日完結するかどうかですが、それは勿論…


マルカワのフーセンガムの膨らみ具合にかかっているのです♪(^◇^)┛