話題:童話


ラマン巡査の交番からベネディクト菓子店までは、ゆっくり歩いて十五分ぐらいの道のりです。春色の舗道を並んで歩く三人の話題は、いつしか自然に“ベネディクト菓子店”へと移りました。

ラマン巡査が赴任した二十年前、既にベネディクト菓子店は在りましたから、そこが老舗である事は知っていたのですが、マルグリット氏の話に拠れば、店がオープンしたのは今から五十年も前だそうです。

もっとも、店を開いたのは現在の店主の父親にあたる人物ですが、その辺りの事情はラマン巡査も多少心得ていました。

先代が亡くなり、息子が二代目となったのが七年前。その頃には既にラマン巡査は着任していましたから、先代、二代目とも顔と名前ぐらいは知っていたのです。

「昔は、それは大変な人気店だったのです」

「ええ、オリジナルのチョコレートやケーキが本当に珍しくて…」

マルグリット夫妻が懐かしそうに当時の様子を語ります。

「開店当時の事は判りませんが、私がこの街に赴任して最初にベネディクト菓子店の前を通った時、賑やかなお店だなあ、と思いましたよ」

「確か、その頃はまだ先代が…」

「ええ、そうです。今の店主がまだ子供で…私も着任したばかりだったので、兎に角この街の事をよく知っておこうと職務に燃えていました」

そう云いながら少し照れくさそうに笑うラマン巡査に、マルグリット氏が首を二度三度と振りながら答えます。

「いやいや、それは私も同じです。役所の生活課で係長という今までよりも責任の重い役職について、ちょうど街も大きくなり始めた時期でしたから…」

「あの頃は忙しかったですものねぇ…」

マルグリット夫人が少し遠い眼差しで云う。

「うん、忙しかった。この街を少しでも皆が暮らしやすいようにしよう、って…そんな使命感に勝手に燃えていたのでしょう」


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