話題:童話

それは、春の訪れを予感させるような暖かい冬の日の午後…。

いえ、もしかするとそれは春の始まりの日の午後であったかも知れません…。

ラマン巡査の勤務する交番に一組の老夫婦がゆっくりとした足取りで入ってきたのです。

「こんにちわ」
「こんにちわ」

物腰の柔らかそうな二人でした。

ラマン巡査は、二人が身に纏っているごく自然な上品さに好感を抱きながら、勤務日誌を書いていた手を止め、改めて老夫婦の方へ向き直りました。

「どうぞ、お掛けになって下さい」

「ありがとう」
「ありがとう」

老夫婦は巡査と向き合う形で、それぞれ質素なパイプ椅子に静かに腰を降ろしました。

「今日は良いお天気ですね」

二人が腰を下ろすのを見届けてからラマン巡査が云いました。

「ええ、暖かくて…散歩にはうってつけの日和です」「本当に…まるで今日から季節が春になったような」

交番の前の舗道の日溜まりでは、二羽の雀がまるでダンスを踊るかのようにチュンチュンと跳ね回っています。

「ところで…」

ラマン巡査の顔が少し引き締まったものに変わりました。それもその筈、わざわざ交番を訪ねて来たと云う事は、何かしら“それなりの理由”があっての事に違いありません。

「…どうかされたのですか?」

巡査の質問に、まず最初に答えたのは老夫婦の男性でした。

「私達は、どうやら…拾い物をしたらしいのです」

何とも変な話です。

“拾い物をしたらしい”とは、いったいどういう事なのでしょう?

ラマンは少々不審に思いながらも、そこは勤務二十年のベテランですから、ある程度の落ち着きをもって二人に問いかけました…。

「すると…あなた方は何かを落し物を拾われたのですね?」

「ええ…そう思うのですが」

その声は何とも歯切れの悪いものでした。

「あなた。説明するよりお見せした方が…」

「おお、そうだなそうだな」

老男性は、着古されてはいるが仕立ての良さそうな茶色のコートのポケットから、何やら【キラキラ】と輝くものを取りだして、机の上に置きました。

キラキラしたもの。

そうです。それは確かに【キラキラしたもの】だったのです。

さて、皆様…

その【キラキラしたもの】とは、何なのでしょう?

ダイヤモンドやサファイアなどの高価な宝石でしょうか?

それとも、金時計や耳飾りといった装飾品の類でしょうか?

いえいえ…。

そうではないのです。

実は、その【キラキラしたもの】は恐らく皆様が想像し得る“どのキラキラしたもの”とも違っていたのです。

でも…

その正体が明らかになるのは、もう少し時間が必要なのです。

これは、冬の終わりを告げるような、そして春の訪れを知らせるような、或る暖かな午後に始まり、そして終わった“夢まぼろし”のようなひと時の出来事。

とっても短いお話です。ですので、どうかあと少しだけ、お付き合い下さいますように…。


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