話題:連載創作小説


背中を向けた檸檬色の仔猫の上には、縁どりの滑らかな筆記体フォントで、次のような言葉が記されていました。

《le couple de cete》

恐らくフランス語だろうと菜奈は思いましたが、残念ながら意味までは判りません。

それでも、素朴なパステル調のイラスト絵には菜奈の心を惹きつけるものがありました。

いえ、惹きつけると云うよりは、菜奈の心のギザギザとイラストの仔猫の心のギザギザが上手く噛み合った感じでしょうか?

“心のギザギザ”などと云うと聞こえは良くありませんけど、人の心は常に滑らかな縁どりを保っているわけではなく、何処かしらが欠けていたり、或いは逆に出っ張っていたりと、ギザギザした形である場合の方が多いような気がするのです。 


それは決してネガティブな意味でのギザギザではなく、ただ、そういう形をしていると云う事です。

菜奈と仔猫の紅茶カップも、例えるならば、ジグゾーパズルの隣り合ったピース同士が偶然にも小さな雑貨屋で出逢ったような感じでした。

それは刻々形を変え続ける生きたパズルピースですが、こうして、ちょうど隣り合う形になったタイミングで出逢った事は恐らく、菜奈にとっても紅茶カップにとっても幸運だったに違いありません。

それが証拠に菜奈の心はもう、その紅茶カップを買う事に決めていました。けれども、その前に大事な問題が一つ残っています。云うまでもなくそれは、この紅茶カップの値段です。

それほど高価な物とは思えませんが、菜奈はアラビアの王様ではありませんから、流石に値段も確かめずに買うような真似はとても出来ません。

ところが、カップの何処をどう見回しても普通ならば付いているであろう値札が見当たらないのです。菜奈の脳裏に一瞬、嫌な考えが浮かびます。



《続きは追記からどうぞ》