話題:連載創作小説


【水島博之誘拐事件】、そして【Kコーポレーション全社員同時失踪事件】の発生から、ちょうど一週間が過ぎた水曜日の朝、限りなく夜に近い明け方の四時半少し前。

いつものように原付バイクを走らせ、朝刊を配達していた新聞配達員の竹本洋治(26歳)は、或る一軒家の前でバイクを停めると傍目からもはっきりと判るほど、明らかにウンザリとした表情を見せた。

なんだ、今日もかよ…。 

竹本がボヤくのも無理はない。その家の玄関、門柱に備え付けられた赤い箱型の郵便ポストは、詰め込まれた新聞の山で溢んばかりの状態になっているのだ。

配達した新聞が取り出されないまま、かれこれ、もう一週間になるだろうか…。

全く…。旅行に行くなら行くで、その間の配達を停止するよう、サクッと電話一本入れてくれたら良かったのに。

どうやら新しい新聞はポストに収まりそうもないので、仕方なく、すぐ下の塀に立てかける格好で新聞を地面に置いたあと、苦々しげな表情で郵便ポストの上の【草壁】と書かれた表札に目をやったのだった。

全く、一週間も家を放ったらかしにするなんて何を考えているんだろ?

だが、その考えは竹本の迂闊と言えた。

彼は知らなかったのである。正に今、自分が配っている朝刊に【Kコーポレーション大量失踪事件】に関連する記事として小さく載せられている、もう一つの不可解な失踪事件の事を…。




その竹本が朝刊を全て配り終えてから二時間以上が経った午前七時四十分の水島邸。

朝食を終えた隆博は、食器が全てキッチンへ運ばれて十分なスペースが出来たテーブルの上に朝刊を広げて読み始めた。息子の博之は少し前に学校に行くため家を出ている。そして佐知子は朝食で使った食器をキッチンで洗い始めたところだ。

あれから一週間。水島家には平穏な時間が流れていた…。


《続きは追記に》。