話題:連載創作小説


大粒の激しい雨が降り注ぐ【Kコーポレーション】本社ビル前。時刻は夜にほど近い夕方の六時過ぎ。そう、これは『誘拐犯‐A kidnapper‐』その【7】と【8】の狭間で起こった、もう一つの事件の話なのである…。 




本社ビルの入り口で立ち番を勤めるI県警の若宮巡査は、支給された白色の雨合羽で雨に打たれながら、幾らか悔しい思いでビルに入る他の捜査員たちを眺めていた。

本来ならば自分も捜査に加わるはずが、本庁から大量に出張ってきた捜査員たちのせいで、見張り役という警備員のような役割へと押し出されてしまったからだ。

しかし、それも無理はない。事件の規模がこれだけ大きくなれば、捜査の陣等指揮はどうしても警視庁が執る事となり、I県警の捜査員は本庁の指示に従うより他はない。それでも、ベテランの捜査員たちにはそれなりの仕事が与えられているようだが、歳も若く経験もさほど深いくはない若宮巡査程度の人間は、せいぜい見張りか使い走りがいいところだった。

冷たい雨に体が冷えてくるのを感じながら若宮巡査がそんな事を思っていると、新たなパトカーが【Kコーポレーション】本社ビルの前に小さな飛沫を上げながら停まるのが見えた。

やれやれ、またお偉いさんのお出ましか…。

ところが、パトカーから姿を現したのは、若宮がよく顔を知る人物であった。

警視庁捜査一課所属、草壁警部。現在は本庁の人間である草壁も数年前まではI県警捜査一課の捜査官であった。もともとは企業犯罪などを専門とする捜査二課員だった草壁だが、やがて二課から一課に、そして一昨年にはついに警視庁へと栄転していた。

キャリア組でない草壁の出世は、同じノンキャリアの人間に希望を与えるものであったが、同時に、何故このように“トントン拍子での出世できたのか”という疑問に答えられる者はなく、それは現在でも《I県警の七不思議》の一つとされていた。


《続きは追記に》。