話題:連載創作小説


誘拐犯との電話でのやり取りが現在進行形で続いている水島邸ではあるが、ここで一旦、時と場所を移して別の事件について語ろうと思う。

場所は水島邸より直接距離にして数十キロ離れたマンションに、時刻は現在より約1時間ほど前となる午後六時だ。

その事件は直接的には水島邸で起きている誘拐事件には何の関係もない。だが、それでいて実は深い関係があるのだ。

この、極めて逆説的な言い回しの意味は、この物語を最後まで読めば判るだろうと思う。

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水島邸より数十キロ離れた都内某所にあるレンタル契約式マンションの一室で、誘拐犯がリビングの椅子に腰かけながらチラリと奥の部屋に視線をやると、そこには相変わらずゲームに熱中する人質の少年、水島博之の姿があった。

張り合いが無いぐらい手間の掛からない人質だな…。

何とも身勝手な思いを胸に抱きながら、誘拐犯が壁の時計に目を移すと、二つの針はちょうど午後の六時を指していた。

次に身の代金要求の電話を掛ける迄には、まだ一時間ほど余裕がある。やや暇を持て余した誘拐犯が何気なくテレビを付けると、ちょうど夕方のニュースが始まるところだった。

もとより特に観たい番組があった訳ではないので、そのまま画面を眺めていると、トップニュースとして流れ始めたのは、I県を本拠地とし精力的に事業を展開しているレジャー産業【Kコーポレーション】で突然発生した“全社員の同時失踪”という、何とも不可解な事件であった。

【Kコーポレーション】は、ここ数年で俄かに台頭してきたレジャー産業界の若き雄で、その名前には誘拐犯も聞き覚えがあった。

それが、昨夜から今日にかけての僅かな間に、会長から平社員までの全ての社員、その数およそ600人が、ほぼ同時に行方不明になったというのだ。奇怪といえば、余りにも奇怪すぎる事件であった。


《続きは追記に》