話題:連載創作小説


「お金なら、出来る限り用意します」

(なんだ、判ってるじゃない。うん、こういう具合に話がテンポ良く進むのは良い事だ)

誘拐犯の口ぶりは、人質の所有という強みのせいで余裕綽々であった。

「それで…私たちはどうすれば?」

相手の嘲るような口調を無視するかのように、佐智子が話を進める。

(そうだな‥取り敢えず、明日の朝までに現金で五千万円用意して貰おうか)

「五千万!!」

佐智子は思わず提示された数字をオウム返しに叫んでいた。

「そんな、無理ですっ!うちは普通のサラリーマンで、いきなり五千万なんて言われても、どうやって用意すればいいのか…」

佐智子が示した、ほとんど狼狽に近い困惑は実に正当な感情であった。水嶋家は、ごく一般的なサラリーマンの中流家庭で、とてもではないが、五千万などという大金を一晩で右から左へ動かせるような身分ではない。

ところが、犯人の口から発せられた次の言葉は、佐智子に更なる困惑をもたらせた。

(実家に頼めばいいだろ?)

「えっ?」

(坊主が言ってたぞ。アンタの親、資産家なんだって?)

「博之が?」

(ああ。豪邸の写真も見せて貰ったし、セレブ大集合みたいなパーティーの写真も見たよ)

 

《続きは追記に》。