話題:創作小説

「ウヒョヒョヒョヒョーー!!」

信じられないぐらいに突っ散らかった部屋で、歓声を上げながら踊る初老の男の姿があった。

男は真ん丸の黒縁眼鏡を掛け、膝丈まである白衣を羽織っている。

このステロタイプな服装は如何にも科学者、それもマッドな研究を自費で続ける発明家タイプの科学者に見える。いや、それに間違いない。と云うより、絶対にそうだ。むしろ、そうでないとストーリー的に破綻してしまう。

そうなると、この部屋は必然的に研究室と云う事になる。ならなければ困る。で、見上げると、部屋の入り口の上に【研究室】と書かれたプレートが見える。うむ、しっかりと予定に沿っているようだ。

と云ったところで、部屋の奥にあるドアから、今度は頼りなさそうなヒョロヒョロした若い男性が登場した。彼も初老の男性と同じく膝丈まである白衣を着ているが、眼鏡は掛けていない。その代わりに髪の毛が明らかに寝癖の状態のままキープされていた。

ここまで来たら、彼はもう博士の助手であるとしか考えられない。いや、そうでないと書き手も読み手も困ってしまうのだ。

すると、若い男の方が小躍りして喜ぶ初老の男に向かって声を掛けたのだった。

「博士、その“如何にも発明が完成した”みたいな、アホな喜び方は勘弁して下さい」

ほら!やっぱり、初老の男は“博士”なのだ!

「だって…発明が完成したんだもの。君も助手としてもっと喜びを全身で表現すべきだ」

更によし!案の定、若い男も思惑通りに博士の助手だった!

「で、博士…完成したのはどの発明なんですか?」

どの発明?…と云う事は、この博士は一度に複数の発明を手掛けている事になる。ストーリー的には、どんな発明を狙っているのか壁に貼りだしてあったりすると有り難いのだが…と、研究室の中を見渡すと…あったあった、ありました。“現在手掛けている発明の一覧表”が。

それによると…

【イカの味をタコの味に変える調味料の発明】

【舐めれば舐めるほど巨大化する飴玉の発明】

【履くと勝手に爪を切ってくれる靴下の発明】

などと、如何にも“たった今、やっつけで考えた”ような発明ネタの数々が並ぶ中に、
(重要)【タイムマシンの発明】

と、唯一まともなネタが見える。是非とも、今回完成したものはコレであって欲しい。と云うか、どう考えてもコレ以外には有り得ない。

「で、博士…何が完成したのですか?」

さあ博士、タイムマシンと言いなさい。

「うむ…それが実は、一番困難と思われていた“タイムマシン”を完成させてしまったのだよ」

「それは凄いです」

グッド!ただ…普通にタイムマシンを完成されると、その後のストーリー展開が面倒くさい。何かあっさりと話にケリを付けるような決定的な欠陥が無ければならない。

さあさあ、“しかし…”的な言葉で不完全さをアピールするのだ。

「しかし…このタイムマシンはまだ不完全なのだ」

「不完全とは?」

助手もグッジョブだ。端的な台詞でストーリーを順当に進めてくれている。君には特徴など要らない。黒子として話の展開を助けてくれれば良いのだ。

「まず…移動出来るのは時間のみで空間の移動は出来ない」

「まあ、タイムマシンなので取り敢えず空間は気にしなくて良いと思います」

「うむ。で、問題はもう一つの方…移動可能なのは未来のみで過去には行けないのだ」

「ああ…それは確かに問題です。でも、仕方ないでしょう」

よく云った!…そうなった以上“仕方ない”のだ。

「ありがとう。では、話がまとまったところで試運転と行きたいのだが…」

「実験台になるのは…ま、私なのでしょうね」

 

《続きは追記に》。