話題:突発的文章・物語・詩
ガランとした最終電車の一番後ろの車両。私の向かい側には、白髪にブルジョア髭をたくわえた老紳士が一人ポツネンと座っていた。
車窓からビルヂングの灯りが時折、見え隠れしていて、あたかもそれは、漆黒に染まる都会の夜を、眠りについた人々の見始めた小さな夢たちが、色とりどりの流星となって駆け抜けているようであった。
僅かばかりの幅しかない銀色の窓枠に肘を乗せ、頬杖で流れる夜景のネオンを薄らぼんやり眺めていると、やがて電車が終着点の駅に着いたので、私はそそくさと席から立ち上がった。
しかし、私のハス向かいの老紳士は相変わらず座ったまま、立ち上がる気配すらみせない。
(眠っているのかしらん?)
私は最初、そう思った。
ところが、マジマジと眺めてみれば、かの老紳士の目は二つともパチリと見開かれているではないか。
私は老紳士に近付き、仕立ての良さそうな濃紫色をしたベルベット地の背広にゆっくり手を掛けた。
「あのぅ、もし‥終点ですよ」
それでもなお、老紳士はピクリとも動かなかった。
(ハテ?‥これは急の病か?)
そんな時、何やら老紳士の腰の横から銀色をした蝶ツガイ式の巻き螺旋(ネジ)の様なものが飛び出しているのが私の目に入った。
(はて‥これはまた、不可思議な)
私は訝しく思いながらも好奇心に押され、試しに老紳士の腰の螺旋(ネジ)を巻いてみる事にした。
ギリ‥ギリ‥ギリ‥
少し錆びついているみたいだが、この程度なら何とか巻けそうだ。
ギリ‥ギリ‥ギリ‥
私は、誰もいない深夜の車両の中で螺旋(ネジ)を巻き続けた。
すると‥
カチッ。
これ以上、螺旋(ネジ)が巻けなくなったところで、キラキラッと、老紳士の両目に輝きのようなものが戻った。
すると、今の今までピクリとも動かなかった老紳士の体が、バネ仕掛けの人形のようにピョコリと起き上がったのであった。
『や、や、やあやあ‥うん?‥君、ああ君が‥いやはや、ありがとう。どうやらネジが切れてしまっていたようだ。いや、ありがとう、ありがとう』
そう言うと、老紳士は電車から降り、改札口へと去ってしまった。
(なるほど、そういう事か‥)
私は納得して電車を降り、老紳士に続いて改札口へと向かった。
改札口を抜けようとした時、ブリキのロボットみたいなギコチない動きをしている駅員の姿が、私の目に留まった。
(もしや彼も‥)
果たして、駅員のカーキ色をした制服のズボンの横からも、先刻の老紳士と似た感じの蝶ツガイ式の巻き螺旋(ネジ)が飛び出していた。
私がネジを巻くと、駅員の動きからギコチ無さが消えた。
やがて私は、或る一つのマットな金属製の予感と共に改札を抜け、駅前に広がる深夜のバスロータリーへと出た。
(なるほど‥)
予想通り其処には、ネジの切れた人達が、彫像のような姿形で其処彼処に突っ立っていた。
仕方なく私は、その一人一人の蝶ツガイ式巻き螺旋(ネジ)を巻いて回った。
そして、9人目の螺旋(ネジ)を巻き終えた時‥
(…そうだ。そうだった)
私は思い出したのであった。
(この世界は私が創り出した【蝶ツガイ式巻き螺旋のジオラマ】だったのだ!!)
私は創造主としての責任をもって、最後の一人まで螺旋(ネジ)を巻いて回った。
そして、最後の螺旋(ネジ)を巻き終えたところで、意識を失った。果たして、ヘナヘナと停車場に座り込んだ私の腰からもピカピカと銀色に輝く蝶ツガイ式の小さな巻き螺旋(ネジ)が飛び出していた。
(やはり私も‥)
(誰かの創った蝶ツガ‥)
意識が落ちてゆく。
(誰か、私の巻き螺旋を‥早く‥)
意識の歯車が回転を止める。
そして…
BLACK OUT.
〜Fin〜
◆追記にプチこぼれ話
あと、鉄筋‥じゃなくて‥鉄琴の部分も判るなあ
どこか別の遠い世界を感じさせてくれる音色
あ、音色に関して、また改めて色々と考察してみるかな
で、ネジは自分では巻けないくだりとか…この話は色々と自分で解釈していける幅を持っていると思うから、感覚的にも思考的にも楽しめて‥私自身、気に入ってる話だから、梶井氏にも気に入って貰えて非常に嬉しく思う
もっと、こういうの書きたいんだけどね
その世界に完全に入り込まないと なかなか書けないから大変だ
ああ
これ、原本の方に幾つもコメント貰ってるのに、またまたありがとう
今回は少し加筆して全体を整えた感じだけど、こういうテイストは私の原点の一つだから、時々振り返って再確認する意味も含めて、リライトしてみた
やっぱり、加筆した中では…
眠りについた人々の見始めた小さな夢たちが、色とりどりの流星となって駆け抜けているようであった
↑ここ。
これは、本来在って然るべき部分だったような気がする
サクマ式ドロップも判るなあ
うん♪確かに通ずるものがあるような気がする
蝶ツガイ式巻きネジも、どこか宇宙とか世界へ通じた形状にも感じるし‥
また、〇〇式 って言葉にも深い味わいを感じるなあ
お洒落なタイトル‥ヨ-ロッパの博物館におかれている巻き螺旋∞ まわす持ち手が蝶の形∞で支柱部分は螺旋を描いているアンティ-クな巻き螺旋∞
眠りについた人々の見始めた小さな夢たちが、色とりどりの流星となって駆け抜けているようであった
サクマ式ドロップを思い出したり‥綺麗な情景が浮かんでくるなあ‥鉄琴のかわいらしいメロディも‥
濃紫色のベルベット宝石箱の内張りみたいな上等な生地さわったら水を含んだ苔のようにしっとりしているんだろうなあ‥輝きが戻ってきた黒曜石みたいな瞳
ここが凄く鮮やかに思い浮かぶ‥いのちが戻りキラキラし始めた瞳耳をすませばで雫がバロンの人形に惹かれて見つめていたら【あれ‥!?今目が光った!?】って場面思い出す(*´`*)
或る一つのマットな金属製の予感‥あ、これわかる気がするふわっと上着を着せられるような感じ‥パチッと明暗が分かれる電気ではなく徐々に灯ったり消えたりする照明のような‥
他の命を戴かないと自分の命を維持できないところとか‥本当はそうではなかったらいいのに‥植物みたいに生きることができたらいいのになあ‥
そこに、人間の強さ弱さ‥哀しさ刹那さやさしさ‥あたたかさがあるような気がする‥
この主人公が動いていたってことは誰かが巻き螺旋∞を巻いてくれたって事だから‥また誰かが巻いてくれるはず
それに螺旋を巻いた9人‥それかまた、別のひとが巻いてくれるかも‥∞
陽気なギャングが地球を回すという映画があったけれど‥あったかいキモチが地球を回す
アスファルトの銀貨思い出したり‥ずっと昔にもらったあたたかい想いが現在にも在って‥そして未来へと繋がっていくんだな
07/06/06
判ります判ります
私も最近、夜の12を過ぎた辺りから、体の動きがぎこちなくなってきて‥パタッと意識がなくなりますから
1日の活動エネルギーが尽きたわけだから、
ある意味 それもネジが切れたと呼べるでしょう
コハルもネジ巻き巻きにょ人間れちゅニャリンよん
夜にょ2時とかにわパタッと脱力感に意識がフワフワ〜フワフワ〜と谷間に落ちて行くにょがわかりマチュピチュ
1日にょネジ巻き巻きが終わりまちたん
ちょにょネジ巻き巻きわぁあからちゃまにわわからにゃいようににゃっていてぇ体内にネジ巻き巻きわぁあるにょれちゅニャリンよん
ハッ違った間違ったざんちょれを言うにゃらぁ
体内時計らたれちゅニャリンよん
ネジ巻き巻きとわぁ微妙に違ったれちゅニャリンコハルニョイイタイイミワリカイチテモラエマチュピチュタブン
ありがとうございます
朝でも読めると言って頂けて ホッとしました
最後にネジが止まってしまいましたけど‥きっと 通りかかった 心優しい誰かが ネジを巻いてくれるような気がします
ではでは 今日も腰と心のネジを巻いて 何とか頑張っていきましょう
そうですそうです☆
ネジ巻き式の人形
ゼンマイが切れてくると、動きが段々ぎこちなくなって来て…まるで時間が静止したかのように止まってしまう…
←彼はそれでも動いてそうですけど(笑)
なんか、そういう少し寂しげな物‥好きなんですよねぇ
小さなオルゴール人形とか
で‥cymbals
やっぱり名曲ですよねぇ
少し気持ちが疲れている時とか 心に染みてきます
あああ!
それ、私も持ってた気がします!
あ、ランチアは 大きなヤツで 確か5百円ぐらいのヤツだったかもですが
で‥やっぱり あの当時の玩具って 未開封や保存状態がいいと けっこうな値段がつくんですよねぇ
ちゃんと取っとけば良かった
都会の夜って、それだけでちょっと幻想的なところがあるのですけど…そこに電車が加わると また少し不思議さが増すような気がして
完全にイメージの世界の話なので、とても万人ウケする話では無いのですけど‥小旅行気分になれたのなら嬉しい限りです
読んでも
いいですよ
最後
自分のネジが巻けなかったのは
ちょっと
寂しいですが…
自分の腰回りのネジと
心のネジ巻き
して
今日も1日
ガンバリマス
かたずけしてたら当時百円のゼンマイ駆動のプラモデルが箱入りで出てきました(作りかけ)
カウンタックとランチアストラトス
ヤフオクで見たら結構なプライスが
(作らなければよかった)
こんばんは(^-^*)/
ネジ巻きタイプのお人形って、どこか不思議な雰囲気を醸しだしてますよね
あの動きのぎこちなさ、段々ゆっくりになって、やがては止まってしまう。
巻かれると再び動き出して
ちょいとイメージ違うけど
なんと自分にまでもネジがあったとは…
世にも奇妙な物語のテーマが聞こえてきそうです
ミステリーも、お上手なんですね
関係ないですが、つい今しがたまで、Cymbals聴いてました
やっぱりいいですよね
ちょっとミステリアスで面白かったです
自分が創る世界なんて考えたことなどないから、またさらにドキッとしました
トキノさんの発想っていつもおどろかされます
ひさしぶりのです(笑)
夜の電車など最後に乗ったのが思い出せないくらい昔だから遠くで聞こえるウーンと響く電車の音に思いをめぐらせトキノさんのお話の列車に乗ってみました。
今夜も楽しいお話ありがとう