ほら、夕方の公園で誰も座ってないのにブランコだけがユラユラ揺れてる事があるでしょう?

それってとても不思議な光景で、ちょっと怖くなったりして、どうしても幽霊の仕業とか考えちゃったりもするけど…本当はそうじゃなくて、単純に少し前まで誰かがブランコを漕いでいたって事なんだろうね。

ブランコ遊びをやめて家に帰る時に、しっかりとブランコの揺れを手で抑えて止めてから公園を出る真面目なタイプの子も居るけど、逆に、勢いよくブランコから飛び降りてそのままダッシュで家まで走って帰るような元気の良い子だって居るからさ。

たぶん、独りで勝手に揺れてるブランコは、そんな元気印の子供がついさっきまで乗ってたってだけなんだろうと思う。

でもね‥

それは必ずしもそうじゃない、って云うような出来事が昔あったんだ。

何年前だったかなあ‥

もう十年以上になるのかな‥

ちょうど今日みたいな眩しい夏の夕暮れに、買い物のビニール袋を片手に僕は子供の頃よく遊んだ小さな公園の横を通ったんだ。

ぶら下げた買い物袋の中には良い香りの揚げ立てコロッケが入ってた。何故だかその日は無性に〇〇屋の揚げ立てコロッケが食べたくなったんだな。

〇〇屋は商店街の中にある小さな肉屋さんなんだけど、ちょうど夕方の五時に新しいコロッケが揚がって店頭のケースに並び始める事は、この町の住人なら知らない人は居ないくらいってくらい有名だったんだ。

〇〇屋は今はもう無くなってしまったけど、今でも友達や近所の人なんかと世間話をしてる時なんかに、ふとその話になったりして‥それくらい皆の印象に深く残るような美味しいコロッケを売ってる店だった。

‥おっと、今はコロッケの話じゃなかったね。

兎に角、そんな感じで僕がちょうど公園の入り口の脇に差し掛かった時に何の気なしに視線を公園の中に向けると、砂場の奥にある二つのブランコの内、一つが揺れているのが見えたんだ‥。