話題:突発的文章・物語・詩
アメリカ西部、田舎町の外れにある小さな教会。
のんびりとした初夏の午后を過ごしていたサンダース牧師のもとに、見知らぬ初老の男が「懺悔をしたい」と申し出て来た。
田舎の小さな町である。教会を訪れる顔は決まっている。
顔見知りでない人間がいきなり尋ねて来た事にサンダース神父は少々面食らったが、教会は[初見の客お断り]の高級割烹ではなく全ての人に開かれている場所なので、穏やかな笑みをもって彼を懺悔室へと案内した。
その男は懺悔室に入るとまずはこう切り出した。
男「私は罪を犯してしまいました」
薄い木の壁越しに神父が答える。
神父「人はみな迷える仔羊です、誰もが何らかの罪を犯している罪人(つみびと)なのです。恐れずに貴方が犯した罪を話して下さい」
すると男は意を決するように小さくフッと息を吐き出した後、己が犯した罪を語り始めた。
男「私は…銀行強盗をしたのです」
これは少々面倒くさい事になってきた。てっきり牧師は“妻に内緒で朝からバーボンを飲んだ”とか“結婚記念日だった事を忘れて夜通し酒場でバーボンを飲み続けてしまった”とか、極めて軽い些細な罪の告白だろうとタカをくくっていたのだ。
神父「それはまた…大変な事をしてしまいましたね」
神父の言葉に、男は少し震えるような声で返した。
男「そうなのです‥私はとんでもない事をしてしまったのです。強盗に成功したは良いものの、それ以来の毎日がもう苦しくて苦しくて…」
男の声は少し涙まじりになっていた。
神父「それが罪の意識と云うものです」
男「ええ、ええ…そうなのでしょう。それで、いっそのこと自首しようかとも考えるのですが…どうしても勇気が出なくて、もう30年もずっと独りで苦しみ続けているのです」
さ、30年!
神父は自首を勧めるつもりだったが、30年も踏ん切りが付かないでいるところを見ると、男を警察に出頭するよう説得するのは難しいかも知れない。
神父は州警察か郡警察に連絡した方が良いかもと考え始めていた。
だが、まずは説得だ。やれるだけの事はやらなければ‥。
神父「それはまた随分と昔の話ですね。しかし、罪は罪。貴方はそれを償わなければならない」
男「はい、私もそう思います。幸い、盗んだ300万ドルには一切手を付けていないのです。お金を全て返して素直に刑を受ければ、それが一番‥とは考えるのですが、どうしても捕まるのが怖い」
神父「300万ドル!」
神父は思わず声を出していた。
30年前に300万ドル‥神父はその昔、アメリカ全土を揺るがせた銀行強盗事件を思い出していた。
神父「あれは確か…ケンタッキー・フライド銀行の…」
男「そうです。そのケンタッキー・フライド銀行から300万ドルを盗んだのが私なのです」
全くもって何と云う事だ!!
のんびりとした平和な田舎町の何気ない日々に、このような青天の霹靂が落ちようとは!
サンダース神父は少なからず動揺していた。自分の手に負える事件では無いような気がし始めていたからだ。
しかし…
もしも! もしも、この稀代の銀行強盗犯を説得して自首させる事が出来たならば!
サンダース神父の名前は立ち処に世界へ広まる事になるだろう。
当然それはバチカンにも伝わり…もしかしたらローマ法皇との謁見も…そして、地位と名声の上がった私は世界的な大教会の神父に…
神父はコホンと一つ咳払いをすると、重みのある声で言った。
神父「幸いにも…貴方は盗んだ300万ドルには一切手を付けていないと云う。それに、独りで悩み続けていたと云う事は仲間もいない。素直にお金を返して自首すれば、思っているよりもずっと刑期は短いものになるに違いない。単独犯なら仲間に復讐される恐れも無い訳だ」
説得力に満ち足りた牧師の言葉に男の表情が明るくなった。
男「確かに!神父さまの言う事は筋が通っているような気がします!…何だか勇気が出て来ました」
神父「では、自首をすると‥」
男「はい。神父さまのお蔭で、やっと長年の苦しみから解放されたような気がします。本当に有り難うございました。これから警察に出頭しようと思います」
神父はホッと肩をなで下ろした。一人の悩める男を救い、自分は有名人となる。これ以上、ハッピーな結末が存在するだろうか? いや、無いだろう。
その時、
神父の頭にちょっとした疑問が浮かんだ。
神父「あ、そうそう…最後に一つだけ聞いても良いかな?」
男「…はい、何でしょうか?」
神父「いや、大した事では無いのだけれども…300万ドルもの大金をそんなに長い間隠し通せたと云うのがちょっと驚きで…いったい貴方は何処にそんな大金を隠したのですか?」
すると、男は申し訳無さそうな声で答えた。
男「それがその…お金を隠したのは此の教会の裏庭にある樫の木の根元なのです。あそこならまず人は来ないから見つかる恐れも無いと思って…本当に罰当たりでスミマセン」
そうか…
それで、この男はわざわざこんな片田舎の教会を選んで懺悔に来た訳か‥。
男「神父さま、それではそろそろ‥警察に行こうと思います」
神父「少し待ちなさい……」
………
………
男「神父さま‥出来れば決意が鈍らない内に自首したいのですが‥」
神父「貴方は‥もう十分苦しみました」
男「え?」
神父「考えてみれば、もう30年も昔の事。関係者も皆忘れているに違いない。そんな忘れている苦い記憶を今になってわざわざ掘り起こす事の方が罪です」
男「はあ…そう言われればそんな気がしないでもないような…」
神父「それに、銀行は保険会社から保険金を受け取っているから損はしていないし、もちろん預金者も損はしていない。保険会社はそういう時の為に毎月高い保険料を取っている訳だし…つまりは誰も大した損はしていないのです」
男「まあ‥そうかも。しかし、そうなると‥私はいったいどうすれば?」
神父「忘れてしまいなさい」
男「はい?」
神父「全てを忘れるのです。そして、今後一切この事は口にしないように。それが皆が幸せになる一番の解決なのです。事件の関係者は嫌な事を思い出さずに済み、貴方も檻に入る事はない。ついでに言えば、警察も仕事が減って楽になる」
男「‥なるほど。言われてみれば確かにその通りです。さすがは神父さま、今度こそすっかり心が軽くなりました」
神父「いやいや、それ程でも…兎に角、大切なのは“絶対に誰にもこの話をしない事”…良いですね」
男「勿論ですとも。何から何まで本当に感謝しています。…あ、そうだ。お礼と云う訳ではありませんが、感謝の気持ちとして、何かしら寄付なり寄贈なりをしたいのです。大した物は用意出来ませんが、何か要り要の物があれば遠慮なく言ってください」
男の申し出に、牧師はしばらく考えていたが、やがて静かに口を開いてこう言った…
神父「そうしたら、少し大きめのスコップを一つ…」
男「そんな物で良ければ今日中にでも。では一度自宅へ戻って取って来ます。本当に有り難うございます。これでやっと人生をやり直す事が出来そうです‥」
神父「ええ‥私も同じ想いです」
〜
END 憲一
〜
ボクシー
ウィットが素敵です
なんだか‥バネでスーパーカーを弾きたくなって来ました
で、タランティーノ!なるほど!
西部の田舎町の埃っぽい空気と寂れた教会‥そして チョイ悪なヤツら
ピッタリかも
こりは〜
何気に…
ハードボイルド
荒れた高野に一本の道が延びていて
ひたすら走り続けるとちっちゃな街並みが…
その街の端におんぼろで埃まみれの協会が…
みたいな
これはタランティーノ辺りが撮るとかっこいいかも
そうなのよね
この神父さんが その後 どのようにお金を使うのかには全く触れてないから、言うなれば、その後の物語を紡いで行くのは 読んでくれた皆さんって事になる
なるほどなるほど…梶井氏はそういうストーリーを作りましたか
出てくる情景の一つ一つが温かくて梶井氏らしいなあ〜と思った
一見すると 悪がそのまま 野放しになって終わってるように取られるかも知れないけど、善悪は常に二匹の蛇みたいに絡み合いながら 尚且つ 揺らいでいるのかも知れない とか 途中から思いながら書いた
この結末も 揺らぎの一面にしか過ぎなくて 物語はまだ途中
その先にあるものを想像して欲しい と云う気持ちもあったな
で… 書き終わってからだけど 金時計を盗んだ金持ちの老人の話にちょっと通じるところがあるかもと 思ったから 指摘されてビックリした
もちろん、終わり方も違うし あの話ほど作り込んでもいないから、どうしても甘さは残ってしまうのだけれども
エンデと同じ泉といって貰えるのは本当に光栄に思う
ありがとう
エンデにこめかみをグリグリやられた後、猪木に闘魂ビンタされたら最高だ(単なるドMか)
だったかなあ‥天の蔵には富や名声は持っていけないけれどやさし〜くてあったかいものは持っていけるそうだ‥
まあ、自分もきちゃない部分は色々持ってる訳ですが‥
清濁を併せ持つのが人間だとおもー清い部分だけもってるのが天使濁った部分だけもってるのが悪魔人間も、どちらかに突き抜けられたら精神的にラクなんだろうけど‥
天使と悪魔が同じテーブルでお茶を飲んでる
そこに人間のろくでなしさと素晴らしさがあるのだろう
サンダース牧師もナンダカンダ言っていいところはあるとおもーな
【みんなであそべる公園があればなあ〜】
【足腰が弱くて‥バスが通るようになればいいんじゃが‥】
そんな村の人のためにお金出してくれると思う勿論バーボンをバボッとスコッチをすこっち(少し)買い込むと思うが‥
自分の事にお金をつかったらそこで完結してしまうけど、みんなの為に使ったらみんなの笑顔と未来に繋がっていく‥
サンダース牧師は日曜は村の放送局で聖書を読んでる気が濃厚にするわ!!だって村一番の知識人(笑)のにおいがするもの
そんで日曜日村の人は家族でママお手製のブルーベリーパイを頬張りながらラジオ(木製のジュークボックスみたいな)聞いてんの古き良きアメリカの農村部
聖書は20分ぐらいで切り上げて後は草刈りの日時のお知らせ大食い大会のお知らせ村の小学生のブラスバンドが準優勝したこと婦人会が催すバザーの品物を募集しています‥
とか、そんなこと言ってそうだなー
例えば現代/日本/教師/不良生徒/とかに変えても‥
エンデも時が変わっても通じるお話を紡ぎだしていた‥もしかすたら、エンデも様も同じ泉から生まれた仔なのかもしれない
エンデが100歳年上のお兄さんだから怒られないとおもー(笑)例え怒られたとしてもゲンコ一発ぐらいで勘弁してくれますって(b^▽゚)b家族引で♪‥ってかエンデにブン殴られるのってテラウラヤマシスヽ(≧∇≦)ノ゙
この神父さんも これまでは 田舎の小さな町で慎ましく暮らしていたのだろうけど…
やっぱり 欲得が全く無い人 っていうのは そうそう居なくて 今までは そういう環境じゃなかったりして 現実的ではなかったものが いざ 手を伸ばせば届く位置に来た時に 今まで自分でも気づかなかった物が 自分の中でムクムクと頭をもたげてくる… なんて事もあるのだろうなあ〜 と云う感じで 書いてみたのだけれど
逆に 銀行強盗の方は 大金が目の前にある環境になったせいで(しかも後ろめたい金だし)‥それまでの現実と 今の現実が変わって、それで 心理状態も 以前とは全く違う物になったのでしょう
本当に‥なまじっか元気で噂好きな暇人‥かなり周りには迷惑かも
そのエネルギーと情熱を ボランティアだとかもっと別の事に使えば良いのにねぇ
アブク錢は 恐いニャ
誰かに見られている…
そんなウシロメタイ心で お金を手にしても ニタニタするくらいで使えないでしょう
(小心者)
この神父様…物欲だらけ?
欲に目が眩まにゃいまっとうにゃ人生を送りたいもにょれちゅニャリン正々堂々と生きていける人生をコハルも歩んれ行きマチュピチュ
つかこにょヒマにゃババァ宝石店にょ時れも大概うっとおちかたにょに平気れぇ毎日来るれちゅニャ
人にょ不幸わ蜜にょ味がちゅるみたいれちゅニャリンウワサヂュキにゃヒマババァ
コハルわぁわざわざ探ちまくられるほろにょ深い中れもにゃいれちゅニャリンたんにゃる時間をちゅぶちゅカモ発見て思ってるに違いにゃい
れぇ移動中にクレーン車と正面衝突お願いちマチュピチュ
その気持ち…よーく分かります
必要なお金がないのって本当にキツいですからねぇ
でもでも、夢邪さんなら、もし大金を手にしても、絶対そのお金を有効に使って 上手に 自分達も周りも共に生かすだろうなあ〜と そんな気がします
掘ります
誰にも言わず 無心で掘ります
小心者は 使えないでしょう
しかし…欲しいです
我慢できない程欲しいです
やっぱり この世には人を動かす物ダネみたいなのがあって、それに触れると自分の中にある何らかの欲が動き出す‥そんな感じかも知れない
エデンの園の林檎とか‥
まあ、誘惑に負けない心を持てば良いのだろうけど
やっぱりねぇ
すぐ目の前の道にお金が落ちてると‥つい拾いたくなっちゃうよね
( ̄∀ ̄;)
やっぱりですか
なんだか
【罪】は【新たな罪】を呼ぶって感じですね!
怖い恐い!!((゚Д゚ll))
あり得そうな話
やはり…
目の前にぶら下がったニンジン、誰もいない路上に落ちている現金の誘惑は強烈です
名声と大金が共にすぐ目の前に 現在的な物となって この神父は結局大金を選んだ訳ですが、もともとケンタッキーバーボンの事で頭の中がいっぱい みたいなところも感じるので、まあ 誘惑には弱そうな神父ではあります
で… 憲一は(爆)
END 憲一
遠藤憲一
割とベテランの俳優さんですが 最近よく出ているようなので ちょっと使ってみました
END 周作でも良かったのですけどね
本当はかなり簡潔なショートジョークの予定だったのが いつの間にか人間の不完全性や揺らぎの話になってしまいました
神父=善
銀行強盗=悪
それが交錯して入れ替わる様を楽しんで貰えたら…と云う感じでしょうか
サンダース神父には是非ともこのお金を 困っている人たちに向けて欲しいものです
ありがとう
本当はこの十分の一ぐらいの長さの 軽いジョークの予定だったのですが
事故の記事 読みました
まずは双方とも大事にいたらなくて良かったです
後は この苦い経験を本人がどう自分の中で糧にして行くか、でしょうけど、明らかに反省してる様子は認められるので 第一歩は踏み出せている気がします
読みやすいってのは嬉しいなあ
いや 初めは本当に短いジョークのつもりだったのが 登場人物の気持ちとかをちょっと掘り起こしてる内に長くなっちゃったから、テイストが当初の予定とはかなり変わってしまった
どうせなら あと一回か二回 ドンデン返しみたいな事をしても良いかなと チラッと考えたんだけど……長くなり過ぎるから止めた
まあ 内容の解釈は本当に 人それぞれで色々な物が可能だと思うんだけど…新庄…いや、心情を追えるってのは嬉しいし、非常に的確なコメントだって気がする
これ本当は 極めて簡潔にジョークとして書くつもりだったのが…調子に乗っていたらコッテリしてきてしまいました(笑)(≧∇≦)
何だかケンタッキーバーボンの事ばかり考えている牧師と云う設定にしたら名前も自然にサンダースになりました(・o・)ノ
フライド銀行は明らかに無理やりですが(笑)(゜∇゜)
そうですねぇ
神父=善
銀行強盗=悪
と云う まあ大ざっぱではありますけど そういう図式が 二人が交錯する事で入れ変わる
人間の不完全性だとか揺らぎだとか…取り上げはそんな感じでしょうか
カ―ネルだけに金留
ところで最後の憲一って?
あれぇサンダス牧師もこれまたやっぱり人間らたにょれちゅニャリン
つか大金を前にちゃちゅがにょ牧師もやっぱり欲に目が眩みマチュピチュニャリンかぁ
サンダス牧師にわぁケンタを食べにゃがら改心ちていったらっきたかったれちゅニャリン
ミイラ取りがミイラになるテキにゃお話れちゅニャリンちょにょあとあにょお金にょ行方が…またコハル寝れにゃいれちゅニャリンよん
わぉっ!これはなかなか奥が深いっ
うんっ!なかなか心に染み入る話だなぁ〜。と読んでいたらっ
まさかの展開っ
まぁ、みんな人間なんだなぁ〜…
でもっ
今更ながら、やっぱ トキノっちの文才には驚かされるなぁ〜…
みぃう。難しいコトは書けないけどっ
読みやすいもんなぁ〜…
情景と心の動きが伝わってくるもんなぁ〜…
みぃう。こうゆう作品も大好きだよっ
心情が伝わって来るって一番だぉねっ
やっぱり?まさか?のケンタッキー・フライド銀行(笑)。
というか〜。
途中、私も部屋の片づけがもう何年も出来ていないことをこのカーネルおじさん・・・いえ、サンダース牧師に懺悔出来たら何かが変わるかも!?
そんな気がした・・・のデスガ〜(泣笑)。
でもっ・・・ワタクシ、今度ケンタの前を通ったらザンゲしてみたいと思います(笑)。
†アーメン†
いっきに読み終えました
トキノさんの発想力は
いつも驚きます
実は昨日娘が
事故を起こしました
(;_;)
あちらには書いたん
ですが繰り返し
書くのはちょっと
エネルギー不足でした。
今回娘がこんなこと
言いました。
うちは家族には
恵まれたけど
信じられるこころ
打ち明けられる
友達がいないって…
うれしい気持ち半分
せつない話でした
これはこのこが
頑張るところ(;_;)
とわたし自身も
踏ん張っています。
でもね
あの娘の手の
新しい傷を見る
辛さ(;_;)は
何度重ねてもつらい
ものです。
また
迷える子羊なり
END…