数日前の事。

出掛け先のビルで、いつものようにエレベーターに乗って、階数ボタンを押し、そのまま上へ向かおうとしたところ…

正に、エレベーターの扉が閉まり切る寸前、

ヒュウン‥と云う、何やら非常に情けない音と共にエレベーター内の全ての電源が落ちた。

計画停電!

私は慌てて、ほんの僅か(数センチ)だけ空いているエレベーターの扉の先の隙間に手を突っ込み、運慶・快慶の如き鬼の形相と怪力をもって、殆ど閉まっている扉をこじ開けると、這々の体で何とか脱出に成功した。


…危なかった。

あと数秒、エレベーターに乗り込むのが遅かったら、完全にエレベーター内に閉じ込められていただろう。

脱出した私は、思わず安堵の息を吐いた。


それにしても、迂闊であった。

勿論、計画停電の事は知っていたし、その実施時間が迫っている事も承知していた。

実際、ビルに入る前までは、間もなく停電する事は判っていたので、階段を使おうと心に決めていたぐらいだ。

それが、ビルに入った瞬間、ついいつもの癖でエレベーターに向かってしまったのだった。

此処は商業ビルではなく、小さなオフィスが幾つか集まって入っている個人ビルなので、普段から人の出入りはそれほど多くない。

関係者は当然、階段を使うだろうし、休みのオフィスもあるだろうから、もし、そのまま閉じ込められられていたら、普通に発見される確率も低く、その場合、エレベーター内にある緊急呼び出しボタンを押し、救助が来るまで真っ暗なエレベーターの中で、サントリーのボス(缶コーヒー)と過ごす事を余儀なくされていただろう。


因みに私は、閉所が大の苦手で、出来れば自分の部屋も3千畳ぐらいは欲しいと常々思っている人間である。

しかし同時に、質素を宗とする人間でもあるので、生活区域は3千畳の部屋の片隅の4畳半で十分なのである。

話がズレた…。

兎にも角にも、狭いエレベーター内に3時間も閉じ込められるのは、私にとっては想像を絶する苦痛なのである。

どれぐらい苦痛か?

例えるならば‥