話題:勘違い


何日か前、紙面を読んでいて或る文字のところで目が止まった。

[ブルース・ウィリス]

改めて説明するまでも無いだろう。映画【ダイ・ハード】などで有名な米俳優の名前だ。

止まった目は更に疑われた。目にとっては厄日もいいところだ。無理やり一時停止させられた挙げ句に疑われる。快適にドライブしていたら突然パトカーに車を停められ、「ちょっと今ふらふらしてたよね。息の検査だけさけて貰っていいかな」とあらぬ疑いを掛けられたようなものだ。

ブルース・ウィリス……ウィリス?

嫌疑はその[ウィリス]の部分。今の今まで私は、ウィリスではなくウィルス、つまり[ブルース・ウィリス]ではなく[ブルース・ウィルス]だとばかり思っていたのだ。

とすれば[ウィリス]は印刷ミスに違いない。そう思って他のメディアを確認するもウィリス、ウィリス、ウィリス、いずこもウィリスのオンパレード。と言う事は、グーテンベルク(活版印刷の発明者)ではなく私の方が間違っていた事になる。私の口から思わず、かのローマ皇帝ジュリアス・シーザーの有名な台詞が飛び出していた。

『なんてこった!パンナコッタ!ブルースお前もか!』

今までずっと[ブルース・ウィルス]と言い続けてきたし書き続けてきた。それが間違っていた。ショックで髪の毛が50本くらい抜けた気がした。ウイルス性の勘違い。これは恥ずかしい。

でも、本当にそうだろうか?[ブルース・ウィリス]は今でこそ[ブルース・ウィリス]だが、少し前までは[ブルース・ウィルス]だったのではないのか?

前にも話したと思うけれども、外国人の名前の表記は時々変わる事がある。[スティーブン・セガール]を昔は[スティーブン・セーガル]と言っていたのが良い例だ。

兎に角、人の名前というのはなかなかにややこしい。ブルース繋がりで言えば[ブルース・リー]。そこの[・]で区切る位置を最初の最初、玉のように可愛かった子供の頃、私は間違えていた。[ブルース・リー]ではなく[ブルー・スリー]、漢字で書くと[青三]なのだと。

見よ、青ざめた顔の三人の車夫が人力車をひいて月夜の町を駆け抜けてゆく。客は一匹のシャム猫だ。ほああああ、ここは町も人もみなウイルス性の勘違い病に罹患しています

……などと萩原朔太郎が詩に書きそうな勘違いだ。いや、書かないだろうけ。

[ブルー・スリー]の勘違いはあっと言う間に解けたけれども、名前というのがややこしい存在である事は間違いない。これは外国人に限った話ではなく日本人でもそうだ。

例えば、女優の[仲里依紗]さん。これ、何処までが名字で何処からが名前なのか最初に見た時は分からなかった。[仲 里依紗]なのか[仲里 依紗]なのか。どうやら正解は[仲              里依紗]だった模様。何にしても[イ 中 里依紗]なんて区切りではなくて良かった。

区切りはまだしも、これが読み方になると更に訳が判らない。昨今のキラキラネームを目にしたら吉良上野之介(きら・こうずけのすけ)はいったいどう思うのだろうか。でも、よく考えてみれば、上野之介を“こうずけのすけ”と読む事自体、ちょっとキラキラネームっぽい感じがしないでもない。まあ、そんな事を言い出したら古事記とか日本書紀とか神話に出て来る名前なんてキラキラどころかビカビカ光っている感じだけれども。

話を若干戻して名前の読み方について言えば、最近、突然の結婚で話題になった女優の[武井咲]さん。正しい読みは[たけい えみ]ですが、最初の頃はずっと[たけい さき]だと思っていました。[咲]で[えみ]。お代官さま、その読みは少々ご無体にてござりまする。

更に恥を忍んで付け加えれば、[武井咲]は[たけい さき]で[武井壮]くんの妹だと思っていました。これは完全なる自己責任の間違い。歳をとると思考が大雑把になってくるので、スタイルが良くて名字が同じなら二人はもう兄妹として頭の中では処理されてしまう。歳を重ねた分、人生の情報量が多くなるので大雑把に分類し整理し、情報を処理していかないと身が持たないのです。名前が同じ例で言えば……

真田広之→武将・真田幸村の子孫=アクションが得意そうな雰囲気。

金田一京助(学者)→金田一耕助(探偵)の兄弟=頭が良さそう。

ガッツ石松→ガッツ星人と同郷=強い奴が多い土地柄。などなど。


[ブルース・ウィリス]に関して言えば、これまた単なる私の勘違い。でも、心の中では今でも(本当はブルース・ウィルスなんじゃないの?)という思いがほんのちょびっとだけ有ります。例えば途中で名前が変わった。髪の毛がそれなりにあった頃は[ブルース・ウィルス]で、無くなってからが[ブルース・ウィリス]。逆出世魚的な名前の変化。うむ、その可能性も無くはない。或いは[ブルース・ウィリス]と書いて、読みは[ぶるーす ういるす]とか。

以上、名付けて「大雑把と勘違いのブルース」

是非とも、ブルースの女王・淡谷のり子先生に歌って欲しいものです。


〜おしまひ〜。