話題:妄想を語ろう


◆『買い物ブギ』

〇〇月××日【土】

(晴れ、時々、ぷよぷよ)

色々と買いたい物があったので、近郊のショッピングモールに行った。『無い物は無い』が謳い文句の巨大総合モール。

最初に買う物は決まっている。そう、【万歩計】だ。「健康の為に少し歩いた方がいい」みたいな事を、確か十年くらい前にデューク更家氏が言っていたのを思い出したのが購入の理由。迷った末、買ったのは中南米風の派手なデザインの物。その場ですぐに装着する。買い物を終えた後で歩数を見るとしよう。楽しみ楽しみ。勢いで【ビリーズブートキャンプのDVD】もうっかり購入。

お次は、買おう買おうと思いつつ先延ばしになっていた【アルマジロの餌】。これを2ヶ月分購入する。これで、いつ何時「アルマジロを預かってくれませんか?」と言われても大丈夫だ。【アルマジロの餌】など、その気になればコンビニで何時でも買えるが、コスパを考えれば此方で買った方が良い。ちなみに、近くでアルマジロを飼っている人間は一人もいない。

【アルマジロの餌】と【ビリブー】を無料コインロッカーに預けて向かったのは食器売り場だ。お目当てはもちろん猫舌専用グッズだ。定番の【猫舌専用マグカップ】と【猫舌専用湯呑み】の他、猫舌のプロが愛用する【猫舌専用とっくり&お猪口】、【猫舌専用塗り箸&割り箸】、【猫舌専用フォーク&スプーン】、そして【猫舌専用アースウィンド&ファイヤー】をまとめて購入。猫舌がライオン舌になる日も近いに違いない。という事で、こちらも無料コインロッカーへ。

と、ここで特別催事場にてアウトドア用品の大放出祭が開かれているのを発見。ちょうど、昨今流行りのソロキャンプもいいな、と思っていたところだったので軽く覗いてみる事にした。心惹かれる魅力的なテントが幾つか並んでいる。予定外の出費だが、この機会を逃すと二度と手に入らないかも知れないので、思い切って【サグラダファミリア風テント】と【国会議事堂風テント】の2つを購入する。それぞれ、サグラダファミリアと国会議事堂の外観を正確に模しており、技術力の高さに驚愕させられる。広げれば大人5人が裕に寝泊まり可能な大きさだが、折り畳むとジャケットの内ポケットに納まるぐらいコンパクトになるので、この2つはロッカーには入れず持ち歩く事にした。

その足でスポーツ用品コーナーに行き【和風サーフボード】を購入。これはライディング面が畳になっている珍しいボード。サーフィンは全然やらないが前からずっと欲しかった物だ。これはかなり大きい(四畳半)ので配達して貰う。ボードというよりはちょっとした和室の風情である。波乗りしながらお茶を頂くには最高の逸品だろう。

その次はもはや生活必需品とも言える【携帯用つり革】だ。コ〇ナの影響で、通勤や通学の電車、バス内では殆どの人がマイつり革を使っている。ついでに【携帯用の網棚】も購入。

最後に【粒つぶ数え機DX】(特殊なセンサーによりイクラや筋子、スイカの種、チョコベビーなどの粒つぶの数を数える機械)を購入して買い物を終え……ようとしたところで、大事な物を買い忘れていた事に気づく。慌てて猫舌専用コーナーに戻り【猫舌専用松岡しゅーぞう】を買い足す。これで熱さ対策は万全だ。

当初の予定では、この後に服と靴を買うつもりだったのだが、テントという想定外の出費により予算が限界となる。服と靴はまた改めて。

ここで満を持して【万歩計】を確認する。2千歩ぐらいはいっているはず。

ところが!意外な事に表示された歩数は[0歩]。装着に問題がないのは確認している。故障だろうか?買ったばかりだというのに!改めて説明書を読み直す。すると、大きな勘違いをしているのに気がついた。そもそもにして、これは万歩計ではなかったのである。では何なのか?【マンボ計】……マンボステップの歩数をカウントする機械だったのである。マンボを踊りながら歩かない限り、歩数は増えない。なるほど、デザインが中南米っぽいはずである。

返品するか。いや……ここで、ある考えが浮かぶ。【マンボ計】は私の知る世界では存在しない、このパラレルワールド特有の物である。これは此の世界を脱出する一つのスイッチとなり得るのではないか?つまり、具体的にはこうである。

「マンボを踊るべき【マンボ計】を装着した状態で、マンボ以外、例えばサンバを踊りながら歩けば、此の世界に亀裂が生じ、元の世界に帰れるのではなかろうか」

という事で、モールから家までサンバを踊りながら情熱的に帰宅する。周囲の視線が痛いが、背に腹は変えられない。

すると15分ぐらい歩いたところで、信号機が3色に戻っているのを発見。

よし!元の世界に戻った!

が、どうも様子がおかしい。青信号で横断歩道を渡る際、皆やけに慎重に白線の上を歩いているのだ。幼児の遊びじゃあるまいし、そんなに白線にこだわらなくても、と思いながら普通に渡ろうとすると……ビョ〜〜ン、白線を踏み外した瞬間、見えざる強烈な力が私の体を横断歩道を渡る前の位置に強制的に吹っ飛ばしたのである。その後、3回程試してみたが、やはり結果は同じ。道理で皆、慎重に白線を踏み歩く訳だ。

いったい何が起こったのか。考えられる理由はただ一つ。どうやら私は、また別のパラレルワールドに来てしまったようだ……。


〜おしまひ〜。