話題:妄想を語ろう



パラレル通信社とは、独自に提携を結ぶ(海外含む)各地域のミニ通信局から寄せられるマイナーなニュースを取りまとめて公開する総合的な情報発信局、現代における瓦版である。なお、地方局からの通信手段は伝書鳩なので、その内容は極めて短いものとなっている。それでは早速、本日寄せられた、他のメディアでは決して報道される事のないニュースを見てみるとしよう。

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『老舗うなぎ屋立て籠り事件』


今月11日午後3時頃、東京都あきる野市の老舗うなぎ屋【うな幸和】-うなこーわ-で、店主夫妻と生け簀のうなぎ十数匹を人質&うな質に中年の男が立て籠るという事件が発生した。男は駆けつけた警察官に対し『毎日を土用の丑の日にしろ!』と叫びながら生け簀のウナギに凶器を突きつけた。これを受けて政府はすぐさま関係各省庁及び暇な有識者を集めて緊急対策会議を開き、出前のうな重(松)を食べながらあらゆる角度からの検討を重ねた。会議では、「3時のおやつじゃあるまいし午後の3時にウナギを食べるのは社会人としてどうなのか」や「それは個人の勝手だろう」、「と言うか、我々も今うなぎ食べてますよね」等の無味乾燥な意見が飛び交ったが、結果、「毎日を土用の丑の日にする事は極めて困難である」と男の要求を拒絶する事で全会一致。それを受け、現場には一時緊張が走った。

長引くかに思われた事件であったが、立て籠り発生から小ー時間が経過した午後4時過ぎ、店主の「特別にスタンプカードを3つ押してあげるからこんな事はもうやめましょう」という説得に犯人の男は、引退コンサートで山口百恵さんがマイクをそっと床に置いたように凶器である爪楊枝(使用済み)を床に捨て、投降。現場の警察官に現行犯逮捕された。

犯人は自称・フリーグルメリポーター 佐々木佐々夫(58)で、警察の取り調べに対し犯人の男は次のように語っている――

:壁の貼り紙を見て土用の丑の日は肝吸いが無料で付く事を知り、普通の日に来た事が悔しくなった。割り切って食べ始めたが、山椒の瓶のキャップが緩く、ウナギの上にドバッと大量の山椒が掛かってしまった。箸で散らそうとしたが、タレの濃い部分に固まった山椒を上手く散らす事が出来ず、仕方なくそのまま食べたら想像以上に辛かった。そうなると、ふざけた店の名前にも無性に腹が立ち、今日が土用の丑の日であればこんな事にはならなかったと思うと悔しくて堪らなくなり、結果、今回の犯行に及んでしまった。深く反省している。店主夫妻には誠心誠意の謝罪をし[誠意大将軍]の名をここに復活させたい。:


最後が決意表明の形になっているところは謎だが、一方の店主は――「うな質となったウナギ達に怪我がなかったのは良かったが、精神的にショックを受けている可能性もあるので、カウンセリングなどメンタル面のケアも行っていきたい。(凶器の)爪楊枝は尖端が潰れていたので特に危険は感じなかった。店名に関しては、うちは江戸時代からこの名前でやっているので某塗布薬とは無関係だしライバル意識も全然持っていない」――と神妙な面持ちで語った。

なお、【うな幸和】では、今回の事件が無事に解決した事への感謝と世間を騒がせてしまった事へのお詫びの意味を込めて明日12日より1ヶ月間、来店しお食事された方へもれなく[豪華粗品]が進呈されるそうだ。粗品の中身について店主は―それはまだ秘密ですが、どうぞ御期待ください―と自信の表情で語っていたが、店の奥に大量のポケットティッシュと団扇(うちわ)が山積みされているのを報道取材陣は見逃さなかった。この事に関してはあまり期待しない方がいいだろう。

「山椒の瓶のキャップをきちっと閉めてお待ちしております」店主は最後にそう付け加えた。

追記:【うな幸和】の夏季限定メニューに[うな幸和COOL定職](うなぎ冷茶漬け、うなぎ寿司、うなぎシャーベット、うなぎアイスラテ)なる物がある事から、某塗布薬の事は明らかに意識していると思われる。


〜1/11日付《なで肩通信》より〜


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さて、当ブログはパラレル通信社と一年間の専属契約を結ぶ事となりました。引き続き第2弾、第3弾をお待ち下さいませ。なお、パラレル通信社から送られてくる各地のニュースは全てこの世界に隣接する“パラレルワールドの日本、及び世界、及び宇宙のもの”ですので、どうかこちらの世界で当該の場所などをお探しにならないようお気をつけ下さい。

では…また。