話題:詩


微睡むような 月灯りの下で

詩を書いては いけません

月の光で

書いたそばから

文字が言葉が

溶け出して ゆくからです

前の一行を 無くしては

次の一行を 書く事は出来ません

前の一文字を 失えば

次の一文字は 生まれないのです

最初の文字が 最後の文字になって

それで おしまい

それでも無理に 書こうとすれば

月は

詩を書く貴方 そのものを

溶かしてしまう事でしょう

黄金色ににじむ 月の光の湖で

互いに溶け合う

貴方と 失われた言葉たち

例え ふたたび出逢えたとしても‥

それはもう

他の誰も読む事の 出来ない

孤独な一つの 黄色い詩篇です

もしも 自由とひきかえに

姿と形を 失う事に

少しでもためらいが あるのなら

微睡みの月灯りの下

決して 詩を書いてはいけません


これは‥

月夜の窓辺に迷いこんだ 一羽の夜鳩が

そっと教えてくれた

内緒内緒のお話です。


【終わり】