話題:シュール


『少なくとも日曜日と月曜日の間には、もう一つ別の曜日があったように思うの』と彼女は言った。

彼女が神妙な顔をした時は要注意だ。その日の初めに会う人間がオカマではない確率―つまり、ほぼ百パーセントに近い確率―で変な事を言い出す。例えば…

「晴れた日の穏やかな午後は、気持ちが少しマッシュポテトに近づく」だとか…

「暇をつぶす時は“退屈”をハンカチかスカーフで軽く包んでから木のトンカチで優しく叩くと綺麗に暇をつぶせる」だとか…

「蚊が本当に吸っているのは血じゃなくて、その人の出世運だと思う」だとか…。

『だって、日曜日と月曜日ってあまりにも風味が違い過ぎるもの』

彼女は蚕のように口から世界を吐き出す。そして、その世界を理解する事はとても難しい。曜日の風味とは何だろう?

『例えば、水曜日から木曜日になるのって総務部から人事部へ異動になる程度の風味の違いだけど、日曜日と月曜日は雪女と雪男ぐらい風味に差があると思うのね』

風味という言葉の意味がますます解らなくなってきた。でも、彼女の言いたい事は何となく判る気もする。一週間を階段とするならば、日曜と月曜の段差だけが不自然に大きいので、その間に本当はもう一つ段があったのではないか、というような事を示唆しているのだろう。仮に彼女が正しいとして、失われた曜日とは何曜日なのだろう?

『そんなの判らないわ。風曜日、虹曜日、犬曜日、猫曜日…好きなの選べばいいと思う』

[ご自由にお持ち下さい]の無料カレンダーじゃあるまいし、好きなのを選べと永遠の言われても。

『判ってるのは、その某曜日が怪獣に食べられちゃったんじゃないか、って事だけかしら』

はい。怪獣さまのお出ましです。怪獣。曜日を食べる怪獣。怪獣だから怪しいのは当然としても、何と言うか、怪しさの質が違っている。で、結局、彼女は何が言いたいのだろう?

『一度ある事は二度ある、って言うじゃない。その怪獣、某曜日を食べて今はお腹いっぱいだけど、その内また空腹になって曜日を食べに来ると思うのね』

来るって何処から?

『自宅じゃないかしら。ねぇ、今、曜日が幾つあるか知ってる?』

七つでしょ。

『あら意外と物知りじゃない』

社会人なら誰でも知ってるよ。

『そう、七つ。これ、ギリギリの数だと思うの。これ以上怪獣に曜日を食べられたら大変。月曜とか火曜ならまだダメージは少ないかも知れないけど、土曜日や日曜日が消えたら矢吹ジョーだって立ち上がれないわよ、きっと』

確かに金曜日の次が月曜日というのは絶望的な日の巡りかも知れない。土曜ワイド劇場もサザエさんも見られなくなる訳だし。見えざる怪獣。曜日の消滅。そんな事態にならない事を祈るしかない。

[いつまでもあると思うな日曜日]

そんな標語が頭に浮かんだ。


【終】。