一行の風景【PART1】。


話題:詩人の一行日記


喜びも哀しみも全てはたった一行の中に
。感じるままに見えた景色のどれもが正解。それが一行の風景なのです。






今日は赤信号の当たり日だ。





稀少糖を使った商品が山積みされているという不思議。





威勢の良さが逆に不安だ。





それ、ムーンウォークというより後ずさりでは?





この値段でカニかまなのか。





洒落た名称に期待し過ぎた私の選択ミス。





半額だが明らかに色がおかしい。





三日連続で同じタクシーに当たるとは。





ムキになってサザエの肝をほじくり出している人が隣に。





つり革に両手で掴まる人が隣に。





それ、一人で食べるの?





エンドロールの終了後に、もう少し続きがありそうな気がするが。





思い出が多すぎて潰れた店の会員証が捨てられない。





相手に合わせて「でずにぃランド」と言ってみる。





えっ、二等なのに洗剤?





まれに小骨が混じっている場合があります、のは知っていたのに。





人事は尽くさなかったが、天命には期待したい。





小学校の社会科見学で行った牛乳工場で働く事になろうとは。





歯医者には行くつもりだが今日ではない。





それ、帽子だったのか!

シュール掌編『ケンちゃんと私』第9夜【昔の名前とパラフィン紙】

話題:SS



私の部屋には古い机がある。アンティークというより単に古くたびれているだけの机は、一番上の抽斗(ひきだし)だけが鍵の掛かる造りになっており、その中に綺麗に折り畳まれた一枚のパラフィン紙が仕舞われている。その独特の折り畳み方は、見る人が見れば懐かしさを覚えるだろう。ひと昔前の病院で処方される内服用の粉薬は、丁度こんな形でパラフィンの薬包紙に包み込まれていた。

薬包紙!では、私の机の抽斗の中にある薄青いパラフィン紙の中に入っているのは矢張り粉薬なのだろうか?

答えは否。そこにあるのは粉薬ではなく一握の砂であり、同時にそれはケンちゃんからの渡航土産でもあった。特に美しいというわけでもない。ケンちゃんはそれを或る小国――国の名前は最後まで教えてくれなかった――の蚤の市で手に入れたと言っていた。

海外まで出掛けておいてお土産がコレかい?不服を隠し切れない私にケンちゃんは「これは今でこそ砂としか呼びようのない代物だけど、昔はそれ以外にも別の名前も持っていたんだよ」と何やら含みのある言い方をした。

どんな名前だい?

「渚」。間髪入れずケンちゃんはそう答えた。

渚?

「そう、渚。いや、それだけじゃない。他にも砂浜とか浜辺とか、包括的な意味合いで海と呼ばれたりもしていた」

ケンちゃんの話に拠ると、この一握の砂はかつては美しい海の美しい砂浜だったという。しかし、海は消失し、後を追うように渚も消えてしまった。海を失った砂浜を砂浜と呼ぶ者はなくなり、それは単に砂と呼ばれるようになった。

「海は、それを海と知る者が居て初めて海となるだよ。渚も然り。ほら、渚という字はサンズイに者と書くだろう?そして、海を海と知る為には陸というものを知っていなければならない。部分と全体――いや、それではまだ半分だけれども――兎に角だ、海は相対的な意味合いにおいて海なのだね」

相変わらず、人を煙に巻くような物言いをする。

「でもね…」ケンちゃんは一呼吸置いて先を続けた。「科学ではまだ実証されていないけど、砂には物事を記憶する能力があるのだよ」

パラフィン紙で包まれた一握の砂。かつては渚と呼ばれていた砂。この砂は今でも自分が海の一部であった時の事を覚えているのさ、ケンちゃんは言う。そして、この砂は、失われた海の失われた渚に残された最後の砂なのだ、と付け加えた。

湖や内海が消えたという話なら聞いた事が無いではないが、彼の口ぶりからするとどうやら消えたのは外海であるらしい。太平洋、大西洋、インド洋…外海が消えたなどという話は未だかつて聞いた事が無い。いったい、何がどうなれば外洋や外海が消失、消滅するような事態が起こるのだろう。

このパラフィン紙の中の砂が失われた海の残滓だというのは、ケンちゃんならではの詩的メタファーなのかも知れない。これは単なる砂でしかなく、実体上はさしたる意味を持たないのだ。そう思った。しかし、そう思いながらも其れは現在、鍵の掛けられた机の抽斗の中に大切に仕舞われている。内緒話のように。

「砂はすべてを覚えているよ。波の音も潮の香りも、人々の喜びも哀しみも、かつて自分が渚と呼ばれていた頃、其処で起こったすべての出来事をね」

もしも、世界の海が全て消えてしまったら、私はこのパラフィン紙の包みを開き、一握の砂を抽斗の中から再び世界に戻そうと思っている。砂がすべてを覚えているのならば、この砂が撒かれた場所から、もう一度、海を甦らせる事が出来るかも知れない。そう考えたからだ。でも、そんな事にならないのが一番いい、何と言っても。

私の部屋には古い机がある。その机には鍵の掛った抽斗があり、その中にはパラフィン紙に包まれて、海が一つ入っている。


【第9夜終了】。

ラブソングはそのままで(わかりやすい恋人たちの詩)


話題:詩


『僕が作詞作曲した君に捧げるラブソング、今から唄うから聴いてくれ』

それは大きな栗の木の下の出来事。貴方は突然そう言うと自信満々で弾き語りを始めましたね。世界でただ一人、私の為だけに存在する歌。とても嬉しかったわ。でも……

唄い始めて三十秒で私は気づいてしまったの。貴方が作ったという歌、その歌詞は石川さゆりの《天城越え》と一字一句違わないものだと言う事に。貴方は思い込みが激しいから、きっと自分が作詞したような気になっていたのね。けれども……

もっと驚いたのは、その曲のメロディーがB'zの《ウルトラソウル》と全く同じだった事。《冬の華》の歌詞を《ウルトラソウル》のメロディーで最後まで違和感なく唄いきる。よくもまあ、そんな器用な事が出来るものだと逆に感心してしまったわ。

そして、唄い終わるのと同時に天から栗の実が落ちて来て貴方の頭を直撃した…。きっとあれは、変なものを聴かされた栗の木がみせた、せめてもの抵抗だったのだと思う。

貴方の作った私だけの歌。栗の木には不評だったみたいだけど、私は、ラーメンにチャーシューが一枚多く入っていた時と同じぐらい満足でした。

だから、貴方はずっとそのままで居て欲しい――そんな気持ちを込めて、今度は逆に私が貴方に捧げる歌を作りました。歌詞とメロディーを楽譜に書いて送ります。次に会った時、今度は栗の木の下以外の場所で、また弾き語りで歌って下さいね。

かしこ。


◇◇◇◇◇

‐オリジナル楽曲‐

『毎日がエブリデイ』

空の青さはスカイブルー
雨の日だってレイニーデイ

囁くようなウィスパーで
たった一つのオンリーワン

感じるままにフィーリング
私の心はマイハート

微笑むスマイル
涙のティアー
夢見るほどにドリーミン

貴方の名前はユアネーム
本当のトゥルーが待っている

*毎日がエブリデイ
 毎日がエブリデイ

昨日の事などイエスタデイ

明日はきっと
明日はきっと
明日はきっと

トゥモローになる。

◇◇◇◇◇

*気が済むまで好きなだけリピート。

メロディー…音符は全部【ソ】で。


ドラマ放送の途中ですが…。


話題:突発的文章・物語・詩

…ドラマ放送の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。

本日先程、東京葛飾区のトンカツ屋《メルヘン豚ちゃん》において、食べていたロースカツ定食の右端のカツが全部脂身だった事に腹を立てた客の男性が、厨房のキャベツを人質に店に籠城するという立て籠り事件が発生しました。

駆けつけた警察官に対し、男は手に持った凶器のスライス檸檬を振り回しながら「近寄るな!近寄った奴にはレモン汁を浴びせてやる!目に入ったらシミるぞ!」と威嚇。事態を重く見た警察が急遽、大量のおしぼりを用意するなど、現場は一時騒然となりました。

その後、立て籠った男は店に対し再三に渡りお冷やのお代わりを要求するなど落ち着かない様子を見せていましたが、警察官の「特別にポイントスタンプを3個押すよう店長に頼んであげるから」の説得に応じる形で投降し、人質のキャベツも無事解放されました。

警察の取り調べに際し男は「大人げない事をしてしまった。洗っていない手でベタベタ触ってしまいキャベツには本当に申し訳ない事をした。スタンプが貯まって来たので今度はヒレカツ定食かササミカツ定食を頼むようにしたい」と反省の態度を示しながらも「取り調べ室と言えばカツ丼ですよね?」と、並々ならぬトンカツへの執着を見せていた。


さて、特別報道スタジオにはゲストとして、たまたま局の廊下をうろついていた暇人のお二方にお越し頂いております。まずはどんな話題でも決してブレないコメントをする事でお馴染みの国民的コメンテーターの林さんです。林さん、都会の死角をついた形で起こった今回の人質立て籠り事件。どうお考えでしょうか?

林「えっ、何か言った?ごめん、ぜんぜん話聞いてなかったわ。ごめんごめん。本当、スペシャルでごめん」

ありがとうございました。以上、スペシャル“ごめんテーター”の林さんにお話を伺いました。人の話を全く聞かないその態度、相変わらずのブレなさです。

続きましては、世界のあらゆる事情に精通する世界的ジャーナリストの富勝さんにもお話を伺いたいと思います。富勝さんは今回の事件に関してどのような見解をお持ちでしょうか?取り調べ室でカツ丼が出てくる事は絶対に無いと聞いたのですが…。

富勝「知らんがな。てか、遅くなると電車混むから俺もう帰るわ」

えっ、帰るんですか?富勝さんにはジャーナリズムの観点からも今回の事件を解説して欲しかったんですが…

富勝「ん〜…いや、やっぱ帰るわ」

本当に?

富勝「じゃあな♪」

…ありがとうございました。“じゃあなリスト”の富勝さんにお話を伺いました。見事な“じゃあなリズム”でした。


それでは、ドラマをご覧の皆様、引き続き『日曜サスペンス劇場・三頭身刑事の事件簿〜デカい頭の名推理〜』をお楽しみ下さいませ。


〜おしまい〜。






不在の本棚より抜粋。


話題:妄想話


金欠病というのは極めて厄介な病です。普通の病気であれば、まずは安静を保ち、薬を飲んだり必要な栄養素を補給し続ければ改善に向かう事が多い。ところが、金欠病の場合はそうもいきません。安静などもっての他。何もせずに家でだらだら寝て過ごせば間違いなく病状は進行します。入院も論外。入院費用がかさんで取り返しのつかない事になる恐れがあります。湯治で草津の湯などに出掛けるのも駄目です。いえ、それ以前にそもそも、この病気の場合は病院に行ってはいけません。むしろ、休日を返上して会社に行くべきです。基本、金欠病からの回復には馬車馬のように働くしかありません。ごく稀に競馬場や競輪場、競艇場で回復する場合もありますが、それはあくまでも一時的なもの。金欠病は通常の病気とは正反対の性質を備えた極めて珍しい事例であると言えるでしょう。

しかしながら、必ずしも悲観的にばかり捉える必要もありません。考えようによっては「お財布のダイエットに成功した」とポジティブに捉える事も可能だからです。肉体のダイエットの困難さに対し、お財布のダイエットはとても簡単。好きな物を好きなだけ食べて大丈夫。しかも、お財布ダイエットの場合、肉体とは違い、“非常にリバウンドし難い”というダイエッターにとってはとても悲しい…いえ、喜ばしい特性があります。一度薄くなった財布はそう簡単には分厚くならないのです。


〜アンタガタ猪木・著『病気ですかー!』(延髄書房)。特別付録DVD《カッチョいいガウンの脱ぎかた》デジタルリマスター版146分収録。定価‐身ぐるみ全部。より抜粋〜。


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