ローストビーフへの長い道のり。


話題:あらあらヽ(・∀・)ノ


「冷蔵庫にローストビーフがあるから食べていいぞ」

トランプのKのような表情で父が言う。度々言う。すると、冷蔵庫の中にあるのは、ほぼ間違いなく“スモークサーモン”なのである。父の脳内では“スモークサーモン”という実体に対応する言語がローストビーフなのであろう。

そして、「冷蔵庫の中にスモークサーモンあるぞ」、そういう時は“ローストポーク”が入っている。

ローストビーフはスモークサーモンで、スモークサーモンはローストポーク…。ならば…私は考える。恐らく父が「冷蔵庫にローストポークがある」と言った時、ローストビーフが登場するに違いない。それにより、実体とそれに対応する言葉のジャンケン的なトライアングル関係が出来上がり、全てが丸く収まる事となる。三角形だが丸く収まる。恐らくは、そういう暗号がそこには在るのだ。

私は、父の口から「ローストポーク」と言う言葉が出る日を密かに待っていた。

そして、ついにその日が訪れた。

「冷蔵庫にロースト…ポークがあるから良かったら食べてくれ」

私の暗号解読が正しければ冷蔵庫の中には今度こそ“ローストビーフ”が入っているはず。私はやや緊張しながら、冷蔵庫の扉を開いた。しかし、そこにあったのは…

“生ハム”であった。

どうやら暗号は、思いの外、複雑であった。ローストビーフへの道のりは未だ遠いようである…。


「冷蔵庫の中に備長炭があるから食べていいわよ」

母が言った。

炭は食べないけれども…そう思いながら冷蔵庫の扉を開けると“ビンチョウまぐろ”の姿があった。

「ビンチョウまぐろ…正式には“ビンナガまぐろ”と言うらしいね」

私がそう言うと母は、「ふぅ〜ん」、何とも気のない返事を一つ寄越したのであった…。


〜おしまい〜。


ある時、夜更けのバーで。


話題:SS



ある時、夜更けのバーのカウンター席で、幸福な男が自分の人生について上機嫌で語っていた。これまでの俺の人生は幸運続きだったし、この先もずっと幸運に恵まれ続けるに違いない、と。すると、横の席で独りで飲んでいた老人が男に向かって、静かな、それでいて不思議な重みを持った声でこう言った。「なに、どんな時間も永遠には続きませんよ」。

折角の気分に水を差された幸福な男は苦々しい顔で思っていた。「この老人は人の気持ちに暗い影を投げかける…そう…人間のふりをした悪魔に違いない」と。

また、ある時、不幸な男が不運続きの自分の人生について長々と愚痴をこぼしていた。この先も俺の人生はずっと不幸が続くのだろう、と。すると、横の席で独りで飲んでいた老人が男に向かって、静かな、それでいて不思議な重みを持った声でこう言った。「なに、どんな時間も永遠には続きませんよ」。

その言葉を聴いた不幸な男は少し晴れやかになった顔で思っていた。「この老人は人の気持ちに希望の光を与えてくれる…そう…人間のふりをした天使に違いない」と。


―――――――


「とまあ…そんな話があるのだけどね。結局、その老人は悪魔だったのだろうか?それとも天使だったのだろうか?」

ある時、夜更けのバーで、自分が幸福なのか不幸なのかよく判らない男が隣の席に座る見ず知らずの老人に、ほろ酔い加減で話していた。すると老人は少し考えた後、静かな、それでいて不思議な重みを持った声でこう言った。「それはきっと天使でも悪魔でもなく…幸せな時間も不幸せな時間も知っている、ごく普通の人間ではないでしょうか?」

幸福なのか不幸なのかよく判らない男は思っていた。「なるほど、天使も悪魔も人の心の中に住んでいるのかも知れないな…」と。


ある時、夜更けのバーのカウンター席で、私はそんな話を聞いたのだった。


【終】


「お疲れ、カツオ」(回文)とショコラティエは言った。


話題:読み間違い、見間違い



『カツオの風味がUPしました』

そんな特に目新しくもないキャッチコピーに、私は驚きを隠せなかった。

何故か?

それは、その文字が書かれていたのがチョコレートの箱だったからだ。鰹ダシのチョコレート!その瞬間、荒海で豪快にチョコレートを一本釣りする鳥羽一郎さんの姿が見えた気がした。

ところが、そんな私の驚愕は瞬く間に瓦解する事となる。

『カカオの風味がUPしました』

カツオではなくカカオ。単なる私の見間違いであった。カカオという字は形がカツオに似ているし、また、“風味”もカツオとは相性が良く、セットで使われる事も多い言葉だ。恐らくはその二つが見間違いを引き起こした要因だろう。私はそう結論づけた。

まあ、単に夜で目が霞んでいたという話もあるが。

それにしても…【カツオ風味がUPしたチョコレート】…もしも、そんな物があるとしたならば、ちょっと食べてみたい気もする。



夏を仕舞う日。


話題:写真詩


小さな蜻蛉(とんぼ)が秋を連れてきた、そんな日は

誰を誘うでも、誰に誘われるでもなく、海へとひとり足を向ける

人影もまばらな波打ち際は夏と秋の境界線で、

遠ざかるヨットの帆

手をふる夏のうしろ姿が見えていた。

今年の夏をアルバムの頁に綴じ込めて、

去りゆく季節に小さく一つ

クシャミをする。




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