話題:お夜食。


深夜の職場。まったりと仕事していた私達は、小腹が空いてきたので気分転換も兼ねて何か食べに行こうという話になった。三十秒にわたる大議論の末、行き先は職場から車で数分のラーメン屋に決定。店の存在自体は以前から知っていたが、店内に足を踏み入れるのは初めてなので少し楽しみだ。本当はオムライスが食べたかったのだが、それでも楽しみだ。もしかしたら、サイドメニューでオムライス的な物があるかも知れない。

そこで私達とは別の仕事で社内に残っていたスタッフの一人にその旨を告げると、「あのラーメン屋、脂が強烈なので気を付けた方がいいっすよ」と何やら忠告めいた言葉が返ってきた。

その店が脂たっぷりの“こってり系”だという事は知っていたし、時刻は深夜だ、恐らく彼は“胃もたれ”を心配しているに違いない。極めて真っ当な忠言といえる。しかし、まあ、スープを全部飲み干したりしなければ大丈夫だろう…とい考えた私は「ウィ、ムッシュー♪」と素軽い返答を残して、その場を後にした。

ボロボロの社用車で程なく目的のラーメン屋に到着した私達は、まず入り口の自販機で食券を買った。残念ながらオムライスは無いようだ。が、諦めるのはまだ早い。裏メニューとして存在する可能性がある。そんな事を思いながら奥側にある四人掛のテーブル席へと私達は歩を進めた。その一歩目。私はあのスタッフの言葉の真の意味を知る事となる。

ずるっ♪きゅっ♪ぐきっ♪

何とまあ、床の滑ること滑ること!アイススケート場の氷のリンクと同じくらいの滑りようだ。上の三つの擬音、最初のずるっ♪は足を滑らせる音。次のきゅっ♪は踏ん張った私の靴のかかと部分のゴムが上げる床との摩擦音。最後のぐきっ♪は私の足首から上がった嫌な音を表している。

見れば床に油膜が浮いている。丁寧にワックスが掛けられているのだろうか?…否。恐らく答えは否だ。油脂を使い過ぎているせいで、天井から壁そして床に至るまで店全体が脂ぎっているのだ。

危ない。危うくスッテンコロリン丸になるところだった。「脂が強烈なので気を付けた方がいい」とは、この事だったのだ。

この尋常ではない床の滑りよう。もしかしたら、ここの床下には未発見の油田が隠されているのかも知れない…。

それにしても…

オムライスが食べたかった。


〜おしまい〜。