話題:あらあらヽ(・∀・)ノ
「冷蔵庫にローストビーフがあるから食べていいぞ」
トランプのKのような表情で父が言う。度々言う。すると、冷蔵庫の中にあるのは、ほぼ間違いなく“スモークサーモン”なのである。父の脳内では“スモークサーモン”という実体に対応する言語がローストビーフなのであろう。
そして、「冷蔵庫の中にスモークサーモンあるぞ」、そういう時は“ローストポーク”が入っている。
ローストビーフはスモークサーモンで、スモークサーモンはローストポーク…。ならば…私は考える。恐らく父が「冷蔵庫にローストポークがある」と言った時、ローストビーフが登場するに違いない。それにより、実体とそれに対応する言葉のジャンケン的なトライアングル関係が出来上がり、全てが丸く収まる事となる。三角形だが丸く収まる。恐らくは、そういう暗号がそこには在るのだ。
私は、父の口から「ローストポーク」と言う言葉が出る日を密かに待っていた。
そして、ついにその日が訪れた。
「冷蔵庫にロースト…ポークがあるから良かったら食べてくれ」
私の暗号解読が正しければ冷蔵庫の中には今度こそ“ローストビーフ”が入っているはず。私はやや緊張しながら、冷蔵庫の扉を開いた。しかし、そこにあったのは…
“生ハム”であった。
どうやら暗号は、思いの外、複雑であった。ローストビーフへの道のりは未だ遠いようである…。
「冷蔵庫の中に備長炭があるから食べていいわよ」
母が言った。
炭は食べないけれども…そう思いながら冷蔵庫の扉を開けると“ビンチョウまぐろ”の姿があった。
「ビンチョウまぐろ…正式には“ビンナガまぐろ”と言うらしいね」
私がそう言うと母は、「ふぅ〜ん」、何とも気のない返事を一つ寄越したのであった…。
〜おしまい〜。