話題:SS


家で焼き肉をやろうと思った。

肉はある。ホットプレートもある。油もある。

しかし、タレがない。

そこで、近所のひなびたスーパーに焼き肉のタレを買いに行った。

すると、ラッキーな事に「エバラ焼き肉のタレ」が特売品でかなり安く売られていたので、迷わずそれを買う事にした。

買い物を終えた私は、ダットサンに乗り込むと脱兎の如くスーパーを後にしたのだっと…いや…だった。う…心が寒い。

家に着き、肉を焼く。

なかなか良い塩梅に焼けた。

そこに、買って来たばかりの「エバラ焼き肉のタレ」をかける。

前代未聞の香りが部屋の中に漂い始めた。

焼き肉を一枚、口中へと運び、噛みしめる。

空前絶後の味が舌を襲った。

箸を置き、焼き肉のタレをみつめる。

それは、美味しいとか不味いとか云うレベルを超えた、未だかつて人類が経験した事のない味と香りだった。

このタレはどのような原材料で作られているのだろう?

パッケージの裏に記されている原材料表記を見る。

―原材料―

リンゴピューレ。ウスターソース。八丁味噌。ニンニク。唐辛子。生姜。牡蠣エキス。モロヘイヤ。ハバネロ。ココアパウダー。ザクロ果汁。ココナッツオイル。発酵バター。脱脂粉乳。ダッフンだぁ抽出物(天然由来)。イカスミ。タコスミ。カラスミ。クワタマスミ。益子直美。ナオミワッツ。乾燥フラミンゴ粉末。……etc. (その他100品はWebで確認ください)。

……。

何だろう、この節操のなさは。

「エバラ焼き肉のタレ」と云えば、定番中の定番商品。こんなアバンギャルドを求める必要などないはずだ。

もう一度匂いを嗅いでみる。

驚天動地の香りがした。

もう一枚肉を食べてみる。

国士無双の味がした。

こんな画期的な焼き肉のタレは初めてだった。いや、画期的を超え革新的かも知れない。いやいや、もはや革新的すらをも通り越し革命的とさえ云える。

それにしても、まさかあのエバラが、こんな革命的なタレを作るとは…。

私は何とも云えない気持ちで、卓上に置かれた「エバラ焼き肉のタレ」を見つめた。

そして、自分がとんでもない勘違いをしていた事に気づいた。

私がてっきり「エバラ焼き肉のタレ」だと思い込んで買って来た物は、デザインこそソックリだが、よくよく見れば全くの別物だったのだ。

その“革命的”な焼き肉のタレの本当の商品名はこうであった…


「ゲバラ焼き肉のタレ」。


私は思わずこう呟いていた…


「バカタレ」と。