話題:妄想を語ろう

もう一枚の挿絵に描かれていたのは、着衣から判断するに恐らくは何処ぞの村人と思しき四人の人間の姿であったが、問題は彼らの首から上の部分である。

驚いた事に、一人目の村人は顔を九十度右に向け、二人目は逆に顔を九十度左に向けている。三人目は顔を真上に、四人目は真下に顔を向ける形で描かれていたのである。

どうだろう。これは「村人たちが常に顔を同じ方向に向けている」という、謎の村に迷い込んだ人たちの証言と一致してはいないだろうか。

その挿絵が問題の村を描いた物である可能性は究めて高い。我々はそう判断した。

さて、見開きの反対側の頁である。当然、我々はそこに挿絵についての説明が書かれている事を期待した。ところが、そこには謎が更に深まるような奇妙奇天烈な二つの言葉が在るのみであった。

[滋矢無顕穂意]

[亜槌無為手穂意]

我々は先ず、この二つの言葉が経文の一部であると考え、あらゆる経典を調べてみたが、残念ながら、それらしいものを見つける事は出来なかった。

上方の挿絵は、現在で言うところのUFO の飛来を描いているように思える。などと言うと、突拍子もない話のように思えるが、実際、日本の古い文献にはUFO としか思えない不思議な乗り物が描かれている物が多数存在する。中でも最も有名なのは、南総里見八犬伝の作者として知られる曲亭馬琴が著した兎園小説「虚舟(うつろぶね)の蛮女」に登場する正体不明の円盤型の乗り物であろう。

この「うつろ舟」の逸話は馬琴の著書以外にも、長橋亦次郎の「梅の塵 空舟(うつぼぶね)の事」など幾つかの書物に見る事が出来る。また、昨年(2012年)にも茨城県日立市の旧家から「うつろ舟」が描かれている史料が発見された事を地元の茨城新聞が報じていた。

我々が見た古文献に描かれている円盤型の乗り物も、やはり「うつろ舟」の一種であると考えるのが妥当だろう。そして「うつろ舟」が宇宙から飛来したUFO だとするならば、円盤から出て来た全身タイツ姿の人間は、当然の如く宇宙人という結論になる。

そこまでは容易に辿り着く事が出来た。が、そこから先が手詰まり状態なのである。UFO 伝説と謎の“顔面一方向村”との関わりが不明なのだ。それを解き明かすには理解不能な二つの言葉の意味を見つけ出す必要があるだろう。

だが、我々はその取っ掛かりを掴めずにいた。このままでは、謎は謎のまま歴史の陰に埋もれてしまう。それは我々の本意に反するものだ。

そこで我々は藁にもすがる思いで、この古文献を所蔵する郷土史料館の館長に救いを求めた。そして結果的に、それが幸を奏す形となったのである…。


〜最終編(完結)へ続く〜。

★★★

もう概ね、結末は見えているとは思いますが…

敢えて、完結は明日の最終編で、という事で♪f(^_^;