話題:美容院


街を歩いていると今でもたまに見掛ける看板がある。それは美容室の外側に掲げられている物で、そこにはファニーな字体でこんな言葉が書かれている。

《ベル・ジュバンスの店》

私が子供の頃から存在する謎の看板だ。そして私は子供心に思っていた…謎のキーワード《ベル・ジュバンス》とはいったい何なのだと。

字面を見る限り、誰かの名前であるような気がする。それも外国人の。但し、アメリカ人の名前とは思えない。語感からするとフランス人の可能性が極めて高いように思う。

それが《ベル・ジュバンス》という言葉に対して子供の私が持った第一印象だった。いや、ここは外国語を使い、ファーストインプレッションとしておこう。

兔にも角にも、謎のフランス人美容師が華麗な手さばきで髪を切りパーマネントをあててくれる店、それが《ベル・ジュバンスの店》なのだ。

そうなると是が非でも《ベル・ジュバンス氏》の顔を見てみたいと思うのが人情だろう。そこで私は、美容室の前を通るたび、さり気なく店の中を覗き込み、そこに《ベル・ジュバンス氏》の姿を見つけようと試みた。

ところが、幾度覗き込んでも店の中にフランス人の姿を発見する事は出来なかった。いや、それどころか、いつ覗き込んでも店の中には人影ひとつ見当たらなかった。

はてさて、これはいったいどうした事だろう。単に繁盛していないという捉え方も出来るが、今回に限ってそれは無いように思える。何故なら、ここは、お洒落の都パリから遥々やって来たフランスのカリスマ美容師《ベル・ジュバンス氏》が自ら腕を振るうラ・ヴィアン・ローズな美容室なのだから。むしろここは、会員制高級サロンのように客を選んでいると考えるのが妥当であるように思う。

そう考えると、店の隠れ家めいた佇まいにも頷ける。町外れの目立たぬ場所にひっそりと植物に囲まれて建つ《ベル・ジュバンスの店》は決して人目に立つ事を望んではいないのだ。それどころか逆に、店を訪れるセレブリティー達がゴシップ狙いのパパラッチやママラッチにまとわりつかれぬよう、敢えて閑古鳥が鳴いているふうを装い世間の注目を逸らせているのだろう。

何という事だ…

学校帰りの道草の途中で私は、世界がひた隠しにする秘密を暴いてしまった!


〜続きは追記からどうぞ♪〜


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