話題:眠れない夜


眠れない夜。古めかしいやり方だとは思いつつも、目蓋の裏に羊を数えてみる事にした。

数羊学は半世紀も前から義務教育における必須科目の一つとなっているので御存知の方も多いと思うが、羊の数え方には実に数多くのパターンが存在する。世界羊眠協会に拠ると、現在世界で公認されている“睡眠導入効果を期待できる羊の数え方”は全部で124個となっている。

まさか、124を“ひぃツーし”と掛けて遊んだ訳でもないだろうが、どちらにしても相当な数である。しかし、その多くは一部の羊眠愛好家にしか知られておらず、教科書に記載されているのは、せいぜい4つ程度だろう。かく云う私も、教科書に載っていた4つに知人から教えて貰った7つを加えた11通りの方式を覚えるのみである。

少し迷った末、私はその中からサリンジャー方式を選択した。サリンジャー方式を簡単なチャートで表すと大体こんな感じになる。

@目を瞑り、目蓋の裏に緑の草原を思い浮かべる。

A草原の真ん中に牧歌的な白木の板で組まれた柵を出現させる。

B画面の右端から、メリノ種など一般的な羊が走って来て白木の柵を飛び越え、そのまま画面左端へ消える。

Cその際、「羊が1匹〜っ♪」と心の中で唱える。

D最初の羊が左端に消えるのとほぼ同時に次の羊が右端から登場し、同じように柵を飛び越え左端から退出。

E上記のB〜Dを眠くなる迄繰り返し行う。

なお、注意事項として……

「1度柵を飛び越えた羊はそのまま消え去り、2度は登場しない」(サリンジャー方式のサリンジャーとは“去るんじゃー”が訛化したものか?)。

「唱える羊の匹数は羊が登場する毎に+1されて行く」(2匹目の羊が柵を飛び越える際には“羊が2匹〜♪”と心の中で唱えろと云う事だと思われる)。

……の2つが在る。

サリンジャー方式は、恐らく世界で最もmajorかつ愛されている羊眠初心者向けの基礎方式といえる。

これがU2方式になると、1度柵を飛び越えた羊は画面の左端でUターンをし、今度は逆に柵を左から飛び越えねばならず、イメージ難易度はほんの僅かではあるが上昇する。

ノットアローン方式に至っては、回を追う毎に1度に柵を飛び越える羊の頭数自体が増えて行く。例えば、24回目の柵越えは24頭の羊が揃ってジャンプする姿をイメージしなければならない。これは相当に難易度が高い。むしろ逆に目が冴えて来そうだ。

他にも、羊の種類を原種の1つとされるムフロン種に限定した「ムロンオムロン方式」や、羊が棒高跳びで柵を飛び越え、成功する度に柵が1pずつ高くなってゆく「ブブカ方式」、サングラスを掛けた羊が柵の代わりにハードルを飛び越えて行く「モーゼス方式」、綺麗な化粧で蹄を長く伸ばした羊が柵など無視してただ華麗に草原を駆け抜けて行く「ジョイナー方式」などがあるらしい。

しかし、それら変わり種の方式は素人には敷居が高く、むしろ逆に眠れなくなる可能性がある。

いずれにせよ、この夜、羊眠に関してはほぼ素人同然の私が見栄を張らずにサリンジャー方式を選択した事は正解であったように思う。


―前編終了―。


眠れないどころか眠くて仕方なくなって来ましたので(笑)後編はまた明日(か明後日)と云う事で宜し……グゥ)(-.-)Zzz・・・・