話題:なんかもうよくわからん

ピンポーン。

と玄関の呼び鈴が鳴りそうな予感がしたので、それに先んじてドアを開けると…

其処には、当たり前のように誰も居なかった。ただ風が吹いていた。私の予感は見事にハズレたのだった…。


【終わり】。


…と云うのは冗談で、予感の通り、其処には今まさに呼び鈴を押そうと指を延ばす男の姿が……無かった。誰もいなかった。ただ風が吹いていた。全ては単なる気のせいに過ぎなかったのだ…。


【終わり】。


…と云うのは冗談で、そんな感じの男が立っていた。私は、呼び鈴を押そうとする男の指を素早く払いのけ、男より早く自らの指で自宅の呼び鈴を押した。私に先を越された男は所在無さげな表情を浮かべながら「どうやら私は来客の座から滑り落ちたようですね。呼び鈴を押したのは貴方ですから、今この瞬間から貴方が来客という事になります」と言い残して立ち去った。去り行く“元”来客の背中に、ただ風が吹いていた…。


【終わり】。


…と云うのは冗談で、そこには今まさに呼び鈴を押そうとする男の姿があった。「何か御用ですか?」訊ねる私に、男はバツの悪そうな顔で答えた。「いや、その…夏なので、ちょっと童心に返ってピンポンダッシュでもしようかなあ〜と思って呼び鈴を押そうとした瞬間、いきなりドアが開いて貴方が現れたので、思わずこうして固まってしまったと云う……何と云うか…その…すまんこってす」

「ああ、そうでしたか。判りました…では、私が此処で見ていますから、どうぞ、忌憚なくピンポンダッシュなさって下さい」

「えっ、宜しいんですか?」

「ええ。こんなつまらない呼び鈴で良ければ、思う存分ご利用下さい」

「…では、お言葉に甘えて遠慮なく…」

そうして男は“家主公認ピンポンダッシュ”を見事に成功させ、風と共に去って行ったのだった…。


【終わり】。


…と云うのは冗談で、ドアの外に立っていた男の顔には[私はピンポンダッシュなど絶対にしません]と書かれていた。

「何の御用でしょうか?」私が訊ねると、男は後ろ手に隠し持っていたプラカードを私に向かって差し出した。

プラカードにはこう書かれていた。

―終わり―

男がプラカードを裏返すと、そこにはまた別の、こんな言葉が書かれていた。

―ただ風が吹いていた―


【終わり】。


…というのは冗談で、玄関の呼び鈴が鳴りそうな予感など実はまるでしなかった。それもその筈、私の家に玄関は無く、従って玄関の呼び鈴自体存在しないのだから。

では、何処から家に入るのか?

答は「何処からも入らない」。

何故なら、家も無いからだ。

そして勿論、“私”なる人物も何処にも存在していない。

始まらない世界。

ただ風が吹いていた。


【終わり】。


〜変な話の御詫びの写真〜


『夏のあしもと』