話題:連載創作小説

小谷人事部長の先導により、ついにマモルは面接者の為に用意された椅子まで辿り着く事に成功した。

部長『じゃあ、私は自分の席に戻るけど、いいよね?』

役割を終えた小谷が言う。が、マモルはそれに対しても首を横に振った。

マモル『いえ、まだダメです』

常務『まだ何かあるのかね!?』

遅々として進まぬ面接に苛立ちを隠し切れない仲本常務が思わず口を挟む。

マモル『はい。面接を始める前に窓のブラインドを全て降ろして欲しいのです』

先程も説明した通り、三人の面接官が座る椅子の背後は全面ガラス張りの窓となっており、通りを挟んだ向こうには同じような高層ビルが見えている。

社長『それは構わないが…どうして?』

マモル『腕利きのスナイパーが向かいのビルから僕を狙っている可能性があるからです』

常務『何っ、スナイパーだと!?』

マモル『そうです。恐らくはコロンビアから来た殺し屋でしょう。今は小谷部長の陰になっているのでスナイピングは不可能ですが、彼が席に戻った瞬間、僕は盾を失い全くの無防備になってしまう。面接者用の椅子は標的の位置を固定する為の目印という訳です。…違いますか?』

部長『違うと思うけど…』

常務『もうバカバカしくて話にならん。社長、もうこれ以上の面接は無意味です』

しかし、完全に呆れ返る二人に対し、社長の大河原は少し違った反応を示したのだった。

社長『スナイパーは兎も角、何故にコロンビアなのかね?』

さすがは社長。食いつくポイントが他の二人とは明らかに違っている。

マモル『薫りです』

社長『薫り?』

マモル『はい。この部屋に入って来た時、先ず最初に珈琲の良い薫りがする事に僕は気づきました』

三人の面接官の前にあるテーブルの上には人数分の珈琲カップが置かれている。マモルはその珈琲カップにチラリと視線をやりながら先を続けた。

マモル『この薫りは間違いなくコロンビアスプレモ豆のものです。そして同時に、僕は或る事を思い出しました』

社長『或る事?』

マモル『はい。それは、このビルのロビーに綺麗な薔薇とカーネーションの花が飾られていた事です』

確かにマモルの言うようにロビーの受付には大きな花瓶があり、中には薔薇とカーネーションが飾られている。

社長『それがどうしたのかね?』

マモル『世間的にはあまり知られていませんが、コロンビアは世界第2位の花の輸出国です。その中でもカーネーションと薔薇は特に重要な輸出品目となっています。同様に、珈琲豆もコロンビアの経済を支える重要な輸出品です。この二つの事実から貴社とコロンビアの密接な関係が浮かび上がる事になります』

常務『無茶苦茶だ。だいたい花と珈琲豆ぐらいで密接な関係を疑われては堪らん』

マモル『勿論それだけではありません。貴社の対中南米貿易部門で昨年、累計約5千万円の使途不明金が出ている事は当然御存ですよね?』

それを聞いた三人の顔がみるみる青ざめてゆく。

部長『な、何故それを?使途不明金の事は会社のごく一部の人間しか知らないはず…』

マモル『ああ、それは…会社のメインコンピューターを始め、幾つかの端末をハッキングして調べたからです。これからお世話になるかも知れない会社なので、ある程度内部事情に通じておいた方が良
いかと思いまして』

常務『…まさか他にも』

マモル『他と言うと…昨年度の粉飾決算の事ですか?それとも、坂元代議士への闇献金問題?…もしくは、現在特別チームを編成して対応にあたっている新型半導体の不具合に関するリコール隠しの件でしょうか?』

それらは何れも極秘中の極秘とも言える案件だった。決して知られてはならない会社の暗部が、たった一人の用心深い男によって次から次へと暴かれてゆく。小心者の小谷部長などはもう半ば気を失いかけている。

社長『つまり君は…5千万円の使途不明金はコロンビアの殺し屋を雇う為に使われたと考えている訳だね?』

マモル『その可能性もある、という事です。コロンビアと言えば、バナナ or 殺し屋。その筋では常識です。向かいのビルから僕を狙撃するとしたら、それは恐らくバナナではなく殺し屋の方でしょう。それで僕は、コロンビアの殺し屋と言った訳です』

(注)コロンビアと言えば殺し屋。←そんな事はありません。

常務『き、君の目的はいったい何なのだ?金か?』

マモル『とんでもない。それでは企業恐喝になってしまいます。僕の目的は先程から申し上げているようにただ一つ、窓のブラインドを降ろして欲しいという事だけです。それさえ叶えて頂ければ、今お話した内部事情は決して他言致しません』

それを聞いた小谷部長の顔に血の気が戻る。

部長『…本当に?』

マモル『勿論です。と言うのは…僕が今日この会社に来たのは、或る人の依頼で情報面のセキュリティをもっと強化するよう、お三方に進言する為ですから』

社長『進言する為に来た?…入社の面接を受けに来たのでは無いのか?』

マモル『面接はダミーです。自然な形で貴方がた三人と会い、話をする為に面接者という形をとらせて頂きました』

常務『何故そんな回りくどい事を…』

マモル『用心の為です。ギリギリまで真の目的は伏せておく事で相手に適切な準備をさせない。駆け引きの鉄則です。もしも、僕が“粉飾決算の件で話をしたい”などと言ってアポを取り付ければ、貴方がたは僕の口を封じようと直ぐに何らかの対抗手段を講じようと画策し始める筈。そうなると非常に厄介です。しかし、完全に面接だと思い込んでいた貴方がたは面接の為の準備しかしていません。これで、ほんの少しではありますが、僕の方が優位な立場に立つ事が出来る…とまあ、そういう算段です』

三人はマモルの言わんとする事を殆ど理解出来ていなかったが、それでも二つの事だけは理解していた。一つは、この男の用心深さは常識の範囲を超えている事。二つめは会社の存亡を左右する程のネタをこの男に握られている事であった。


〜続く〜。


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この話…明らかに書き方を間違えました(泣)(;゜∇゜)

久々に書いていて頭が痛くなって来たという…

打ち切りも考えたのですが、途中で逃げ出すのも何かちょっと癪なので、ここは一つ、完全に開き直って何とか次で完結させたいと思います♪(*゜ー゜)ゞ⌒☆