話題:SS

「二番目の目撃者、Bさんと犯人が接触したのは犯行があった裏通りとメインストリート、つまり表通りとを繋ぐ小路です」

「そして、その小路は裏通りに入る為の唯一の道筋でもある…」

「そうです。Bさん…二十歳の男子学生なんですけど…彼が裏通りある行きつけの古書店へ立ち寄ろうと小路を歩いていたところ、裏通りに出る少し手前で、角を曲がって飛び出してきた男性とぶつかったらしいんです」

「時系列的にはAさんが犯人と接触した直後ぐらいか…」

「ええ、恐らく数十秒後かと」

「すると二枚目の似顔絵は、Bさんが犯人とぶつかった時に見た顔を元に作成されたと、そういう事になるのかな?」

氷川の問い掛けに、山本成海刑事が少し口ごもる。

「まあ、そうですね…正確にはちょっと違いますけど…概ねそんな感じです」

氷川の片方の眉がピクリと少しつり上がる。

「いや、そこは正確に頼みたい。この事件を解く鍵はそういった細かいところにあるような気がするのだ。いわゆる“神は細部に宿る”というやつだな」

「え、お財布に神様が?…もしかして蛇の皮をお財布に入れるとお金が貯まるとか、そういう事ですか?」

「財布ではなく細部だ」

どうやら、不可解な事件に巻き込まれた挙げ句、ごちゃまぜ学部の変人コンビと長らく会話を続けてしまったせいで、流石の警視庁女刑事も少しピントが狂い始めているようだった。もともとが天然ボケのボケ子ちゃんである可能性もあるが。

「それで、Bさんが犯人の顔を見た時の正確な状況は?」

女刑事が再び持参した捜査ノートに目を落とす。

「あ、はい…ええとですね…Bさんは今時の青年らしくスマホの画面を見ながら小路を歩いていたそうです。そして、ちょうど裏通りに出ようかというところで、肩に衝撃が走った…」

「待て。今の話を聞く限りでは、Bさんは犯人とぶつかるまでその存在に気づかなかったと、そういう事かな?」

「はい。実際ぶつかった瞬間も何が起きたのか判らなかったそうです。まあ、ずっとスマホの画面を見ながら歩いていたので当然と言えば当然ですけど。で、自分が人とぶつかった事に気づいたのは走り去る男性の後ろ姿を見た時で、その直後、男性は走りながら一瞬後ろを振り返り“すまん!”とBさんに声を掛けた。二枚目の似顔絵は、その時にBさんが見た顔を元に作成されたものです」

説明を終えた女刑事がふぅと溜め息をつく。

「そうか…。つまり、Bさんが見たのは走って遠ざかる犯人の顔という事だね」

「はい、仰有る通りです」

「そうか……いや、待てよ」

氷川の様子が豹変する。先程までとは打って変わり、氷川の全身から緊張感のようなものが溢れ出している。

「…これは…つまり…いや…そうではなく…逆に…」

「教授!?…大丈夫ですか!?」

ただならぬ氷川の様子に、山本成海刑事が心配そうに声を掛ける。しかし、その声は氷川には全く聴こえていないようだった。

「…そうなると…あの顔は…物理学上………おい、影山君!」

意味不明な呟きを続けていた氷川が突然立ち上がり、影山の名を呼びつけた。

「はい、先生!」

反射的に立ち上がった影山に氷川が目を輝かせながら言う。

「影山君、すぐに例の物を用意してくれないか」

「待ってました!」

再び訪れた見せ場に影山が意気揚々と答える。

「ちょ、ちょっと待って下さい。いったい、何が始まるんですか?」

慌ただしい展開について行けなくなった女刑事が堪らず横から口を挟むと、影山助手はいつの間にか手にしていたリモコンのスイッチのような物を彼女な見せながらこう言った。

「氷川暖炉が天才ロダンに変身する時が来たのです」

そう言われても女刑事には何が何やらサッパリ判らない。

「…変身?」

「そうです。まあ、見ていれば判ります。先生、宜しいですか?」

「ああ、宜しく頼む」

「では…スイッチON!」

影山が相変わらずの前時代的な掛け声と共に掌中にあるリモコンスイッチのボタンを押す。すると…ゴゴゴォーという重低音が教授室全体に広がったかと思うと、床の一部がぱっくりと口を開け、下から台座のようなものがせり上がってくるのが見えた。

「な、何ですかこれ?」

歌舞伎じみた舞台装置の唐突な出現に度胆を抜かれた女刑事が思わず口走る。

「見ての通り、岩の台座です。さあ先生、どうぞ」

「うむ」

影山に促されるまま氷川は岩の台座に腰かけ、何やらどこぞで見覚えのあるポーズを取り始めた。

「…あ、このポーズは!」


★★★★

はい♪大方の予想通り、やはり完結には至りませんでした(^o^)/

もっとも、簡潔に書けば完結させる事も可能だったのですが…こういう蒸し暑い日に完結させるのもどうかなあ〜という気持ちもあり…と、蒸し暑さのせいにしつつ…

次回!いよいよ!…

…いや、何も言わないでおこうと思います(/▽\)♪