話題:SS

似顔絵の顔が有名人の誰に似ているのかを影山が思い出した事により、事件は地味ながらも今まさに佳境を迎えようとしていた。

「まずは一枚目の似顔絵…」

ゆったりと切り出す影山。妙な緊張が三人を包み込む。

「この顔は…そう…」

果たして、影山の口から飛び出す有名人とは一体誰なのだろうか?

「それは…」

「影山君、良いから早く名前を言いたまえ」

勿体ぶる影山に氷川がピシャリと言い放つ。

「…すみません。ここが私の唯一の見せ場かなあ、なんてふと思ったもので」

「その推察は恐らく正しいだろう」

「有り難うございます」

“ありがとう”の意味が良く判らない。

「で、その人物とは誰なのかね?」

「はい、ツートン青木さんです」

影山の口がついにその名前を吐き出した。ツートン青木氏。果たしてこの名前を予想出来た人間が世の中にどれ程いるだろうか。

「どうです、似てるでしょう?」

同意を求める影山に氷川が良好な反応をみせる。

「…なるほど、その通りだ。確かにこの顔はツートン青木氏に似ている」

一方、山本成海刑事はと言うと…

「あの、すみません…誰なんですかそれ?」

どうやら女刑事はツートン青木氏を知らないようだった。

「あ、ツートン青木さんというのはモノマネの人です。美空ひばりさんとか田村正和さんとか、なかなか多才な方なんですよ」

「そう。特に美空ひばりさんのモノマネは絶品と言える」

影山の説明をフォローするように氷川が付け加えると女刑事は渋々といった感じで頷いた。

「…判りました。念の為、後ほどネットで検索してみますけど、お二人がそう仰有るなら、恐らく似ているのでしょう。それで、二枚目の方は?」

「はい、二枚目は…ズバリ、浪速のロッキーこと赤井英和さんです」

流石に女刑事も彼の名前は知っていたらしく、一枚目のツートン青木氏の時とは異なる表情をみせた。

「ああ、確かに…言われてみれば二枚目の顔、赤井英和さんに似ているかも。氷川教授はどう思われます?」

「僕も同意見だ。いや影山君、ご苦労だった」

氷川のねぎらいを受けた影山が少し照れ臭そうな顔になる。

「いえ、そんな…。多少なりともこの事が事件解明のヒントになれば良いのですけど…」

影山の言葉に女刑事が苦笑いを浮かべる。

「それはちょっと厳しいかも…」

女刑事が苦笑するのも無理はない。とてもではないが、それが事件を解く鍵になるとは思えない。それは当の影山本人とて同じだった。ところが…

「いや、必ずしもそうとも限らない。少なくとも僕は、今の影山君の発見に対して少々の引っ掛かりを感じている」

「え、本当ですか?」影山が驚いたように言う。

「ああ。ただし、残念ながらそれはまだ明確な形を取ってはいない。取り敢えず、その件は一時保留するとして、話を僕の質問の方に戻そうと思うのだが…」

勿論、影山も山本成海刑事もそれに異存はない。

「ええと確か…二人が犯人を目撃した時の状況でしたよね?ちょっと待って下さい、今、捜査ノート出しますので」

女刑事が鞄から出したノートの頁をパラパラと捲り始める。

「目撃時状況…目撃時状況と…あ、ありました」

「では始めてくれ」

「はい。一人目の目撃者は埼玉県在住の39歳男性で職業は…」

「いや、そこは省略して貰って構わない」

「えっ?」

「目撃者自体の情報は必要ない。欲しいのは、あくまで、犯人と接触した時の状況だけだ」

「…判りました。では、状況のみを申し上げます」

「頼む」

再び、女刑事が捜査ノートに視線を落とす。

「一人目の目撃が犯人と遭遇した場所は、犯行現場である《丸窓宝石》から約40メートル程離れた裏通りの喫茶店前の路上です」

「…ほぼ犯行直後か」

「そうなりますね。で、その時の状況ですけど…目撃者、仮にAさんとしますね…そのAさんが喫茶店から出て来たところ、《丸窓宝石》のある方角から走って来る男性と遭遇。その時に約3秒程、その男性の顔を見たという事で、それを元に所轄の似顔絵警察官が似顔絵を作成したと…まあ、そういった具合です。因みに、その後、問題の男性は角を曲がり、表通りに繋がる小路へと姿を消したそうです。…説明、こんな感じで宜しいでしょうか?」

何かを考えているらしく眉間に少し皺を寄せた氷川が答える。

「十分だ。改めて要点を確認すると、目撃者Aが見たのは自分に近づいて来る犯人の顔という事になる訳だね」

「はい、仰有る通りです」

頷いた女刑事だったが、氷川の言葉の真意は図りかねていた。片や、見せ場を終えた影山助手は窓の外をボンヤリと眺めている。しかしそれは、決してヤル気を失っているのではなく、恐らくはもう一度訪れるであろう第二の見せ場に備え休息を取っていたのである。

「それで、Aさんの証言に基づく似顔絵は二枚目の内のどちらなのかな?」

「あ、今お話ししたのは、この一枚目の方です」

「ツートン青木さんの方か」

「ええ…一応、そうなりますね。でも…それが何か事件に関係しているのでしょうか?」

「いや、先程も言ったように今はまだ事件の真相、或いは真相に繋がる鍵は僕の中で明確な形を取っていない。しかし、事実を情報として集めて行けば必ずそこに何らかの形が浮かび上がってくる筈だ。少なくとも、今の話で前よりはだいぶ事の輪郭がはっきりしてきた」

「そうですか、それなら良いのですけど…」

「それでは、引き続き第二の目撃状況の説明を頼む」

何とも掴みどころのない氷川の態度に煮えきらぬ思いの山本成海刑事ではあったが、今は彼に頼るより他に道はない。

「…判りました。二番目の目撃状況なのですけど…」


★★★★

そして次回!

事件は佳境を超え、桃源郷へと突入する。

完結必至の次回をお見逃しなく♪
ヽ(・∀・)ノ