話題:SS

「事件の概要については先程説明した通りですけど…大丈夫でしょうか?」

山本成海刑事が二人に確認する。

「うむ、僕の方は問題無いが…影山君、君はどうかね?」

氷川教授の問いかけに影山が答える。

「はい、扉の後ろで二人の話を聴いていたので、ほぼ理解してるつもりです。確か…千歳船橋にある老舗の鰻屋から秘伝のタレが盗まれた…そういうお話でしたよね」

「全然ーっ違います!何処からそういう話が出てくるんですか!?」

「口からだと思うよ」

またもや氷川が余計な口を挟む。

「そういう意味じゃありません!」

影山助手が頭をポリポリ掻きながら幾らか言い訳気味に言う。

「スミマセン。扉越しだったものでちょっと聴き辛くて…」

弁解する影山に、女刑事が冷たい視線を注ぐ。

「扉のせいでは無いと思います」

「まあまあ、二人とも。済まないが、影山君の為にもう一度事件について簡単に説明してくれないか」

氷川の要請に女刑事がため息をつく。

「判りました。…えー…カクカクシカジカ…と、まあこういう事なんです」

説明を聴き終えた影山が小首を傾げる。

「…“カクカクシカジカ”って何ですか?」

「文芸的には、それで説明した事になるんです」

「因みに…エゾ鹿とか白鹿とか、そういった類の物では無いよ」

氷川が、もはや定番化した余計な注釈を添える。

「詳しくは【3】を読んで下さい。それで判ると思います」

影山がスマートフォンを取り出し、【3】を読み始める。

「ハハア…そういう事ですか。だいたい判りました。あ…でも、おかしいですね。神保町と言えば確か管轄は神田署の筈、単なる一窃盗事件に警視庁が出張って来ると言うのも妙な話です」

「ですから、それを今から説明しようとしてた所なんです。…と言うか、それも【3】に書いてあると思いますけど」

「まあまあ、メタフィクションはそれくらいにして…そこの部分の説明を頼みたい」

「判りました。今から説明しますけど、大丈夫ですよね?途中でトイレに行きたくなったりとかしないですよね?」

女刑事の言葉に氷川と影山が顔を見合わせる。

「そんな事言われると、トイレに行きたいような気がしてくるではないか」

「奇遇ですね先生、実は私もです」

「影山君、これは恐らく心理学的効果によるものだろうと僕は推測するのだが、君はどう考える?」

「はい、私も同意見です。それと、私の場合は三十分前に飲んだ珈琲の利尿作用も関係しているかと…」

「なるほど。心理学と薬理学の“ごちゃまぜ効果”か。…実に面白い」

「いいから、二人とも早くトイレ行って来て下さい!」

「先生、何やら刑事さんが逆ギレしているようですが…」

「うむ。事件が行き詰まっている事によるストレスが原因だろう」

「ストレスの原因はお二人です。それと、逆ギレでは無く正当ギレですから」

「そんな事よりも、僕らは早くトイレに行きたいのだが…行っても良いかね?」

「で・す・か・ら!早く行って来て下さいっ!」

氷川と影山は無言で立ち上がると、二人連れ立ち教授室から出て行った。

捜査協力を断り、代わりに氷川を
紹介した筈の影山が何故当たり前のように参加しているのか、それは誰にも解く事の出来ない永遠の謎である。

五分後、戻って来た二人の機先を制するように山本成海刑事は「先ずはこれを見て下さい」と、二枚の紙切れを机の上に並べながら言った。

「これは…何だね?」

机の上の紙切れを覗き込みながら氷川が訊ねる。

「犯人と思われる人物の似顔絵です。そして、この事件が警視庁に廻されて来た最大の理由です」

女刑事が掲げた二枚の似顔絵により、ストーリーはついに事件の核心へと触れた。そして次回、いよいよ、天才ロダンの名推理が炸裂する事となる。乞うご期待。


★★★★


一応結末は考えてありますが…

こんなオチで大丈夫か、かなり心配です( 〃▽〃)