話題:SS
「…おてもやんの涙?」
「はい、それが盗まれたダイヤモンドの名前なんです」
帝都大学《ごちゃまぜ学部》の教授室で、一組の男女が向かい合っていた。男性はこの部屋の主ともいえる《ごちゃまぜ学部》の教授で名前を《氷川暖炉》という。暑いのか寒いのかよく判らない名前だ。その氷川と話しているスーツ姿の女性の名前は《山本成海》。此方も山派なのか海派なのかよく判らない名前だが、こう見えて彼女は実は警視庁の刑事である。
「僕には理解出来ない。何故、ダイヤモンドが涙などと呼ばれるのか」
呆れたように首を振る氷川に成海が食い下がる。
「だって、似てるじゃないですか。ダイヤモンドと涙」
「いや、まるで似ていない。組成成分がまったく違うし、第一、ダイヤモンドは固体で涙は液体だ」
「ですから、そういう事じゃなくてですね」
「じゃ、どういう事なんだ?」
「比喩です、比喩」
「春、夏、秋…比喩」
「先生…出来れば突っ込んで差しあげたいところなんですけど…あまりにも下らなさ過ぎて、突っ込むと此方のアイデンティティが崩壊する危険があるので止めておきます」
氷川の眼鏡がキラリと光る。
「フン…実に面映ゆい」
山本成海刑事が呆れ顔で首を二度三度と横に振る。この人…本当に大丈夫なのかな…。
しかし、彼女の心配は杞憂に過ぎない。何故なら、何を隠そう彼こそ、あの“ガリレオ”と異名を取る有名な物理学者の湯川准教授と肩を並べる存在にして“ロダン”と呼ばれている天才、氷川暖炉教授なのだから。
〜2へ続く〜。