話題:創作小説

ネットの反応はこちらにアレコレ考える暇(いとま)を与えない程迅速なものだった。[指紋][消失][復活]。簡素な三つの検索ワードに対し瞬く間に幾つものサイトが表示され、私は半ば機械的に一番上のサイトをクリックした。

結論から云えば、そこで得られた情報は私を安心させるものだった。どうやら、指紋は指の皮膚が再生可能な状態にある限りは一度消えても数ヵ月で復活するらしい。

…全く、ヤレヤレだ。ホッと胸を撫で下ろした時、検索ページの一番下に妙な広告が小さく掲載されているのを見つけた。

[指紋の事なら当社にお任せ]

何だろう?普段なら、まず気に留める事のない胡散臭げな広告だ。しかし、気が付いた時には私は既にその怪しげな広告にマウスを走らせていた。

微かなクリック音と共に画面の表示が切り替わり、サイトのトップページが映し出される。


★《帝都指紋販売社》★

【不測の事態により指紋を失くしてしまった方、今の指紋に満足出来ず新しい物に替えたいと思っている方、当社はそんな方々の為に格安で指紋を販売しております】


現れたのは予想だにしない怪しげなサイトだった。社名から判断するに、ここが指紋の売買を行う会社である事に疑いの余地はない。

黒背景に指紋がベタベタつけられたサイトデザインも異様なら、そこに謳われているプレゼンの言葉もまた普通ではなかった。

【つけ睫毛やネイルアートはもう古い。これからは指紋でファッションする時代です。さあ、今すぐ貴方もお気に入りの指紋を当社の通信販売で手に入れましょう】

占い系のサイトだと云うならまだ理解出来なくもない。手相占いの亜流とも云うべき指紋占い。怪しい事に変わりはないが、これなら辛うじて常識に掛かっている気がする。

普段なら相手にする筈もない薄気味の悪いサイトだが、今夜ばかりはどうにも気になって仕方がない。と云うのも、サイトの冒頭に書かれていた“不測の事態により指紋を失った方”という言葉、それが頭にこびりついて離れないのだ。何故なら私はまさに今その状況下にあるからだ。

なるほど、通常であれば消えた指紋は数ヵ月で再び元に戻るかも知れない。しかし、私のように常識的とは云い難いプロセスで指紋を失った場合はどうだろう。同じように当て填まるという確証は何処にも無いのではないか。つい数分前に得たばかりの安心感が私の中で急速に失われて行くのが判った。

「全ては不確定」。この夜はそんな言葉を如実に体現していた。

そうなると、このサイトの重要性が俄(にわか)に増してくる。何せこの会社は、不測の事態で指紋を失った人間に指紋を売ってくれるのだ。

買った方が良いかも知れない…

いや、買わなければならないのかも知れない…

深まる夜、思考は指紋のようにぐるぐると渦巻き始めていた。


★★★★

本当ならこのまま結末まで書き切るのがベストなのですが…蒸し暑いこの時期にベストを着込むのも暑苦しいので二つに分割する事にしました♪もちろん、分割手数料は当社が負担致します♪ρ( ^o^)b_♪

という事で、この話は次回、あっさりと結末を迎えるでありましょう♪o(*⌒―⌒*)o