話題:突発的文章・物語・詩

最初にホクロがあった。宇宙が誕生する少し前の世界の話である。いや、正確に言えば世界も無かった。其処にはただ無限大の質量と無限小の表面積を持つ1個のホクロがあった。

やがて、そのホクロから1本の毛が生えてきた。何を隠そう、これこそがビッグバンの正体なのである。非常に地味だが、現実とはそういう物なのだ。兎に角、ビッグバンを起こしたホクロの毛は見事な枝毛で、間もなく2本の毛へと枝分かれした。乃ち、光と闇の誕生である。

やがて、光のホクロ毛は光の皇子として実体化し、自らを[光の皇子ヒョペ]と名乗った。時を同じくして闇のホクロ毛も闇の皇子として実体化し、[闇の皇子ンガググ]と名乗ったのである。

こうして、いつ終わるとも知れない光と闇の戦いが始まった。全ては己こそが正統なるホクロの継承毛である事を証明する為に。

光のホクロ毛こと光の皇子ヒョペは光属性らしく派手な金髪でヨード卵光を大好物とし、一方、闇のホクロ毛こと闇の皇子ンガググは艶やかな黒髪で闇鍋を大好物としていたが、そんな事はどうでも良い。問題は、一見単純な構図に見える光と闇の戦いが実は思ったよりも複雑だった事である。

と言うのは…

光の皇子ヒョペの中にも闇の部分が存在していたのだ。考えてみればそれも当然と言えるかも知れない。何故なら、元々は1個のホクロから枝分かれした存在(毛)であり、其処には光と闇の要素が混ざり合う形で同居していたのだから。

程なく光の皇子ヒョペの心の中の闇が1本のホクロ毛として実体化し始めると同時に光の皇子ヒョペは光と闇の2つの姿に再分裂した。つまり、光の皇子ヒョペの中に新しく光の皇子と闇の皇子が誕生したのである。ヒョペから生まれた光の皇子…系統的に言えば[光の光の皇子]は名前をモチャといい、ヒョペから生まれた闇の皇子…系統的に言えば[光の闇の皇子]は名前をトンジルといった。

さて、勘の良い方なら、もうお気づきだろう。

そう。この時、闇の皇子ンガググにも光の皇子ヒョペと同様の事が起きていたのである。闇の皇子の心の中にも光は存在していた。闇の皇子ンガググから誕生した2人の皇子、[闇の光の皇子]は名をメンドーといい、[闇の闇の皇子]は名をクサイといった。

さて、勘の良い方ならもうお気づきだろう(二度目)。

そう。事態はこれで収まらず更に枝分かれし続けたのである。

[光の光の皇子モチャ]は[光の光の光の皇子マイケル]と[光の光の闇の皇子ジャクソン]に分裂し、[光の闇の皇子トンジル]からは[光の闇の光の皇子ダリルホール]と[光の闇の闇の皇子ジョンオーツ]に分裂した。

勿論この時には、

[闇の光の皇子メンドー]も[闇の光の光の皇子ジャパネット]と[闇の光の闇の皇子タカタ]に分裂し、[闇の闇の皇子クサイ]は[闇の闇の光の皇子トミー]と[闇の闇の闇の皇子マツ]に分裂している。

一定時間ごとに数を倍々に増やしながら光と闇の戦いは続いた。

そして…光陰毛の如し。60億年の歳月が流れ…。

[光の光の闇の光の闇の闇の闇の光の光の闇の光の闇の光の光の闇の闇の光の光の光の闇の光の光の闇の闇の光の闇の光の光の闇の光の闇の光の闇の光の光の闇の光の光の闇の闇の光の光の光の闇の闇の光の闇の光の闇の闇の闇の光の光の光の光の光の光の光の光の光の光の皇子]は名前を【早乙女遥香】という名になっていた。彼女は天下無敵にして押しも押されぬ中学2年生であり、最初と最後の属性が[光]であるせいか、才色兼備、眉目秀麗なる学級委員長でもあった。

気になる方は、是非一度彼女の授業態度をみて欲しい。黒板を真っ直ぐに見据える鋭い目、ピンと伸びた背筋、机の上も中も常にキチンと整理整頓されている。まさに、最終属性が光である人間の姿という事をすぐに理解出来るだろう。

そして、それが理解出来たならば、彼女の斜め3列後方の席から彼女に向かって、“丸めた消しゴムのカス”をぶつけようとしている、五分刈りなのに寝癖のある男子生徒に注目して欲しい。

そう。実は彼こそが[闇の光の闇の光の闇の闇の闇の光の光の闇の光の闇の光の光の闇の闇の光の光の光の闇の光の光の闇の闇の光の闇の光の光の闇の光の闇の光の闇の光の光の闇の光の光の闇の闇の光の光の光の闇の闇の光の闇の光の闇の闇の闇の光の光の光の光の光の光の光の光の光の闇の皇子]こと【垂糸内蔵(だしないぞう)】君である。

彼は彼でまた、如何にも最初と最後の属性が[闇]らしく、とてもだらしない生徒であった。

そして、彼は何かにつけて彼女にちょっかいをかけようとする。

それが、現在の宇宙における“光と闇の戦い”の光景である。但しそれは、無数に枝分かれした“光と闇”のたった一つの毛先に他ならない。

しかし、事はそう単純では無い。60億年を経た光と闇のホクロ毛はとても複雑に絡み合いながら分裂していた。その複雑な内部構造は、早乙女遥香さんと垂糸内蔵くんを“幼馴染み”としてこの世に誕生させていたのであった。

さて、勘の良い方ならもうお気づきだろう(三度目)。

そう。何だかんだ言いながら二人は互いにとって“ちょっと気になる存在”だったのである。

しかし、垂糸くんは闇の属性であるからそれを素直に告げられない。片や、早乙女さんも光の属性ゆえ真面目かつ純情であるが為に、恥ずかしくて自分の気持ちを口に出す事が出来ずにいる。

もし、この二人が共に素直になれたなら…

垂糸くんはひねくれず正直に。
早乙女さんは勇気を持って。

東西の両横綱として真正面からぶつかりあった時、光と闇は再び融和して1本のホクロ毛へと還る事だろう。

どうか、これからの二人を温かく見守って欲しい。

そして、そんな風にして全ての末端の光と闇の毛先が融合した時、ついに宇宙は完成の日の目を見る事となる。

そう…

全ては遥か昔、1本のホクロ毛より始まったのである…。

《おしまい》。