話題:詩
「フィレオフィッシュは、お時間の方、三分ほど頂きますが宜しいでしょうか?」
こうして、私の人生における貴重な三分間はフィレオフィッシュに奪われる事となりました。
フィレオフィッシュと3番の番号札を直線で結んだ先には幻影の海が広がっています。恐らく、これが店員の云うところの「お時間の方」なのでしょう。
お時間の方角の海では、フィレオフィッシュが、そのままの四角い姿で泳いでいます。人はそれを釣り上げて天日に干し、後はバンズに挟むだけ。チーズとタルタルソースは(こうだったらいいな)という願望が見せる錯覚のトッピング素材で本当は挟まれていないのです。
バンズとはパンが二枚あるから複数形でパンズ、それが訛ってバンズになったのだと親戚のお爺ちゃんはまことしやかに語っていたけれど、きっとそれは悲しい抵抗に違いなくて、彼の心は今もなお、浦賀湾にたった一人佇みながらペリーの黒船と対峙しているのでしょう。
失われた三分間の海には水圧で変形した幻の早口言葉が沈んでいます。
[ジョーズが坊主に上手に醸造酢の絵を描いた]
しかもダリ風に。
つまり、何が云いたいのかと申しますと…
フィレオフィッシュの揚げ上がりを待つ三分間は、とても暇なのです。
「番号札…」
起立。
「4番でお待ちのお客様…」
着席。
後から来た4番の客に追い越され、私の3番の番号札は漢数字の三番になりました。
「番号札…」
幻影の海面をイルカが跳ねています。それは蘇我入鹿という名の古代イルカです。
「3番、いえ、三番でお待ちのお客様…」
海底で息をひそめる幻のアコヤ貝の中には真珠のふりをした洗濯ボールが眠っています。
「ご注文は、えびフィレオで宜し…」
深海の歌舞伎座で緞帳が上がり、半魚人の海老蔵が姿を現します。幻の演目[助六寿司]の開演です。
「え、フィレオフィッシュ?…申し訳御座いません。今からお作りしますので、お時間の方、三分ほど…」
失われた三分間の海の底で、幻影のベンジョンソンが世界海底百メートル新記録となる7秒77のタイムを出しました。しかし、それは、“追い風参考”ならぬ“追い海流参考”で公式記録にはならなかったのです。
こうして私の三分間は再び失われ、番号札の三番はローマ数字のV番へと進化を遂げたのでした…。
そんな幻影のマクドナルドでは現在、ドク・ホリデイ風にカウボーイハットを被り、玩具の二挺拳銃を店員に突きつけながらテキサスバーガーを注文すると、西部劇特典として無料でバーガーが貰える可能性があるそうです。
けれども勿論、それは錯覚のウエスタン紙芝居です。
良い子の皆は決して真似をしませんように。
そんな事より…
そんな事より…
私のフィレオフィッシュはまだですか?
《終わり》。