話題:SS
―前編のおさらい―
たまに入る会社近くのラーメン屋。いつものように昼休みに訪れた私だったが、何故か頼んだはずのチャーシュー麺にはチャーシューが一枚も入っていなかった。ところが、丼を運んできた店主の奥さんは“チャーシューはちゃんと入っている”と言う。狐につままれた気分の私の前に謎の老人が現れ相席を申し入れてくる。どうやらその老人は何かを知っているらしいのだが…
――――後編――――
「お主には、その丼の中のチャーシューが見えないというのは真(まこと)かの?」
謎の老人が私の丼を指さしながら言う。
「…という事は貴方には見えるのですか?」
「勿論じゃ」
カウンターの奥から再び姿を見せた店主の奥さんが「ラーメンお待ちどうさま」と言いながら老人の前に丼を置く。
「ではちと実験してみるかの」
奥さんが戻ったのを見届けた老人が呟くように言う。
「実験…ですか?」
「左様。お主のチャーシューを一枚ワシが貰い受ける、そういう実験なんじゃが、良いかの?」
良いも悪いも私の丼の中にチャーシューなど一枚も無い。
「ええ、まあ…もともと私にとっては存在しない物だし…一向に構いませんけど」
「左様か。ではちと失礼をば…」
老人は割り箸を持った手を私に向かって延ばし、丼の中で何かを摘まむような仕草をみせた。その仕草、私には老人の割り箸が虚空をさ迷っているようにしか見えなかったが、老人の手が再び自分の丼へ戻った時、私は自分の目を疑っていた。
老人の割り箸は一枚のチャーシューを挟んでいたのだ。
「あっ、チャーシューが」
老人は私の丼から箸輸送したチャーシューを自分のラーメンの中に入れながら小さく頷いた。
「やはり、これなら見えるのか」
「ど、どうして…」
「ワシのチャーシューになったからじゃよ」
という事は何だ?私は自分のチャーシューは見えないのに他人のチャーシューは見えると、そういう事なのか?
「貴方のチャーシューは見える、なのに自分のチャーシューは見えない…何故?」
真顔になった老人が言う。
「運命じゃ」
運命?それは思いもよらぬキーワードだった。自分のチャーシューが見えない事と運命に何の関係があると言うのだ。
「スミマセン…仰有る事の意味がまるで解らないのですが」
ところが老人は私の質問には答えず、代わりにテーブルの上にあったお冷やのコップを自分の丼の横に寄せたのだった。
「お主には、この丼の中にあるラーメンや具やスープを全てこちらのお冷やのコップに移し代える事が出来るかの?」
「いや、それは無理です」
「如何なる理由で?」
「だって、ほら、丼とコップでは容器のキャパシティが全然違うじゃないですか」
「河童シティ?…ま、確かにラーメンもお冷やのコップも水辺と言えば水辺だが…ここに河童の住む町があるとは思えん」
「いえ、違いますってば。キャパですキャパ、キャパシティ。容量って意味です」
老人がコップのお冷やを一口含む。
「知っておる」
嘘だ。絶対知らなかった。
「と、兎に角、それが理由なのじゃ」
と言われても正直私にはサッパリ判らない…。
《続きは追記からどうぞ♪》