限りなく透明そのもののチャーシュー麺(後編)。


話題:SS


―前編のおさらい―

たまに入る会社近くのラーメン屋。いつものように昼休みに訪れた私だったが、何故か頼んだはずのチャーシュー麺にはチャーシューが一枚も入っていなかった。ところが、丼を運んできた店主の奥さんは“チャーシューはちゃんと入っている”と言う。狐につままれた気分の私の前に謎の老人が現れ相席を申し入れてくる。どうやらその老人は何かを知っているらしいのだが…

――――後編――――

「お主には、その丼の中のチャーシューが見えないというのは真(まこと)かの?」

謎の老人が私の丼を指さしながら言う。

「…という事は貴方には見えるのですか?」

「勿論じゃ」

カウンターの奥から再び姿を見せた店主の奥さんが「ラーメンお待ちどうさま」と言いながら老人の前に丼を置く。

「ではちと実験してみるかの」

奥さんが戻ったのを見届けた老人が呟くように言う。

「実験…ですか?」

「左様。お主のチャーシューを一枚ワシが貰い受ける、そういう実験なんじゃが、良いかの?」

良いも悪いも私の丼の中にチャーシューなど一枚も無い。

「ええ、まあ…もともと私にとっては存在しない物だし…一向に構いませんけど」

「左様か。ではちと失礼をば…」

老人は割り箸を持った手を私に向かって延ばし、丼の中で何かを摘まむような仕草をみせた。その仕草、私には老人の割り箸が虚空をさ迷っているようにしか見えなかったが、老人の手が再び自分の丼へ戻った時、私は自分の目を疑っていた。

老人の割り箸は一枚のチャーシューを挟んでいたのだ。

「あっ、チャーシューが」

老人は私の丼から箸輸送したチャーシューを自分のラーメンの中に入れながら小さく頷いた。

「やはり、これなら見えるのか」

「ど、どうして…」

「ワシのチャーシューになったからじゃよ」

という事は何だ?私は自分のチャーシューは見えないのに他人のチャーシューは見えると、そういう事なのか?

「貴方のチャーシューは見える、なのに自分のチャーシューは見えない…何故?」

真顔になった老人が言う。

「運命じゃ」

運命?それは思いもよらぬキーワードだった。自分のチャーシューが見えない事と運命に何の関係があると言うのだ。

「スミマセン…仰有る事の意味がまるで解らないのですが」

ところが老人は私の質問には答えず、代わりにテーブルの上にあったお冷やのコップを自分の丼の横に寄せたのだった。

「お主には、この丼の中にあるラーメンや具やスープを全てこちらのお冷やのコップに移し代える事が出来るかの?」

「いや、それは無理です」

「如何なる理由で?」

「だって、ほら、丼とコップでは容器のキャパシティが全然違うじゃないですか」

「河童シティ?…ま、確かにラーメンもお冷やのコップも水辺と言えば水辺だが…ここに河童の住む町があるとは思えん」

「いえ、違いますってば。キャパですキャパ、キャパシティ。容量って意味です」

老人がコップのお冷やを一口含む。

「知っておる」

嘘だ。絶対知らなかった。

「と、兎に角、それが理由なのじゃ」

と言われても正直私にはサッパリ判らない…。


《続きは追記からどうぞ♪》
more...

限りなく透明そのもののチャーシュー麺(前編)。


話題:SS

昼休み、会社近くのラーメン屋で私は注文したチャーシュー麺が出来上がるのを待っていた。行き付けと迄はいかないが、何やかんやで週に一度ぐらいは食べに来る店だ。店の人間―と言っても熟年の夫婦二人のみだが―とも軽い雑談ぐらいは交わす程度の気のおけない間柄にはなっている。

この日も普段と何ら変わるところのない、ごく在り来たりな昼休みのヒトコマのように思えたし、実際そうだった。但し、私がチャーシュー麺を注文したところまでは、だ。

連続する毎日の延長線上に突然訪れた小さな亀裂、それは店主の奥さんが運んで来たラーメンの丼の中にあった。判りやすく端的に言えば、そこにはチャーシューが一枚も入っていなかったのだ。

「あれ、私、チャーシュー麺を注文したつもりなんだけど…」

責める感じにならないように笑顔を作りながら言う私に、奥さんは何故かキョトンとした顔で答えた。

「はい、チャーシュー麺ですよね」

そして当然のように、一枚もチャーシューが入っていないラーメンの丼を私の前に置いた。

「えっと…これ…チャーシュー入ってませんよね?」

笑顔をひくひくと軽く強ばらせながら食い下がる私に、奥さんの表情が明らかに怪訝なものに変わる。

「チャーシュー…入ってますよ。ほら、いつも通りにちゃんと六枚…」

「えっ?」

改めて丼の中に目を落とす。とは言っても、丼の中に自分の目玉を落っことしたのではない。視線を向けたという意味だ。

しかし、何度見ても、やはりチャーシューの姿は何処にもない。どういう事なのだろう?奥さんが嘘をついているとは思えない。夫婦二人で何十年も細々と営業を続けているような店だ、今さらチャーシューをケチるような事もないだろう。

私と奥さんの間には互いの真意を計り合うような何とも言えない空気が流れ始めている。胸の辺りがゾワゾワとして落ち着かない。私はそんな空気に耐えかねて「スミマセン、今のは冗談です」と身を引いた。

「もう、イヤだわ〜、いきなり変な事言うからちょっとビックリしちゃったじゃない♪」

笑顔に戻った奥さんは、手で私の肩を軽くピシャリと叩いて厨房へと戻り、私の前にはチャーシュー不在のチャーシュー麺が残された。

その時、背中越しに男性の小さな声が聴こえてきたので、あからさまにならないよう軽く首だけで振り向くと、どうやら声の主は背後のテーブル席で食事をしている若いサラリーマン二人組の一人であるらしかった。

「なんか、俺のだけチャーシューが十二枚も入ってんぞ。これって超ラッキーってやつ?」

「奥さんに惚れられたんじゃないの?氷川きよしのズンドコ節みたいに」

「内緒でチャーシュー二三枚、ってやつか?」

「そうそう。或いはチャーシューの神様に愛されてるか…」

「ああ、チャーシューの神様ありがとうございます!」

何だその馬鹿馬鹿しい会話は。
国の未来を背負って立つヤングサラリーマンとしての自覚が全く感じられないではないか。

…と心の中で軽い義憤に駆られながらも、(その増えてる分、本当は私のチャーシューなんじゃないの?)と、これ以上ないぐらいの私憤に苛まれてもいた。

ガタッ。私が座るテーブル席の向かい側で椅子を引く音がした。

「相席よろしいですかな?」

見れば、妙な老人が私のすぐ目の前に立っている。何時から其所にいたのか。背後に気を取られていて全く気づかなかった。

「ええ、まあどうぞ」

空いているカウンター席に座れば良いのにと思いながらも、拒否するのも失礼な気がしたので、取り敢えずは老人の申し出を快諾する。

「ありがとう。それでは失礼して…よいこらせっと」

奇妙な風体な老人だった。一言で言い表すならば仙人か。布袋(ギタリストでは無い方。七福神の一人)のような福々しい顔立ちながらも背丈は低く、こうして椅子に座るとテーブルの上からやっと顔が出るくらいだ。それでいて目だけはやけに大きくギョロっと見開かれている。

得体の知れない老人だ…。

「チャーシューの不在者投票か…」

席につくなり老人は、意味不明の言葉を呟いた。そのギョロ目はダブルで私のチャーシュー麺に注がれている。

「いや…不在者投票は全然違うか。すまぬ、今のは忘れてくだされ」

「はあ…」訳が判らぬままに私は頷いていた。

しばしの沈黙の後、老人が再び口を開く。

「お主、ちゃんと忘れてくれたかの?」

「へっ?」

「ホレ、さっきワシが頼んだ…」

「ああ…」

チャーシューの不在者投票がどうのこうのという話の事を指しているだろう。

「ええ、大丈夫ですよ。ちゃんと忘れましたから」

「何を?」

「何をって…さっき貴方が仰有った“チャーシューの不在者投票なんたらかんたら”の事ですよ」

途端、老人のギョロ目が更に大きくギョロっと見開かれた。

「お主…しっかり覚えておるではないか」

あっ。いや、でもそれは…

「いえ、でもそれはですね…」

「まあ良い。それよりも、実はの…」

「はい」

「先程の一部始終を見させて貰っとったのじゃが…お主、その丼の中のチャーシューが見えないというのは真(まこと)の話かの?」

見えないチャーシュー。
背丈も低くギターも似合わない布袋。

私は嫌な予感に包まれて始めていた…。

《前編終了》。

後編は…

これから考えま―すヽ(*´▽)ノ♪

そして

私も嫌な予感に包まれ始めていた…。


クールハート単細胞小説『山崎と佐藤と田中と鈴木と高木と石井と山本』。

話題:SS

第1景【山崎と佐藤】

山崎が部屋に戻ると、リビングでくつろぐ佐藤の姿があった。どうやら彼はテレビを見ているようだ。

山崎が「ただいま」と言う前に、ずっと部屋にいたはずの佐藤が何故か「ただいま」と先に言ってきたので、山崎は仕方なく「おかえり」と言いながらテーブルの上を見ると飲みかけのカルピスソーダの入ったグラスが置いてあるのが見えた。と同時にグラスの中にテレビのリモコンが沈んでいるのも見えた。

「リモコンの漬け物を作ってたりするわけですか?」と山崎が訊ねると佐藤は「いや、作ってたりするわけではないと思うね」と答えたので、すかさず山崎は「では何故に?」と再質問を試みた。

「いやね、チャンネルを変えようとしてうっかり手を滑らせてグラスの中にリモコンを落としてしまったのだが」

「拾うべきでは?」

「と思ったのだがね」

「思ったのならば尚更拾うべきでは?」

「拾おうとして手を伸ばしかけた時、番組の司会者が私に向かって言ったのだよ…“チャンネルはそのままで!”とね」




第2景【佐藤と田中】


昼下がりのスターバックスで田中と佐藤は珈琲を飲みながら“反対語”について生温かく語りあっていた。

「ところでさ、カフェオレの反対語って何なのか君知ってるかい?」田中が得意気な顔で佐藤に訊いてきた。どうやら田中はその答を知っているようだ。だが、佐藤にはそれが判らなかった。

「いや、判らんね」佐藤は正直に答えた。

「ならば、教えてやろうか?」

「ならば、教えて貰おうか」

田中は身を少し前に乗り出す格好で言った。

「カフェオレの反対語、それは、カフェオマエだろう。あ、この事はオレとオマエだけの秘密にしような」


第3景【田中と鈴木】

田中がずっと借りて観ようと思っていた映画のDVD を鈴木が先週借りて観たという。

「どうだった?面白かった?」田中は鈴木に映画の感想を求めた。

「うん、なんだかチャカチャカして落ち着きのない作品だなあと思った」少し眉をしかめながら鈴木が答える。

「アクション映画だからその辺は仕方ないんじゃないかな?別に作品の肩を持つわけじゃないけど」

「それにしても、俳優がみんな早口で喋るから台詞がよく聴き取れないし、場面も目まぐるしく変わり過ぎだし、幾らテンポ重視でもあれはちょっとなあ」

「そうか…駄作か」

「いや、まあ、良いところもあるんだけどね」

「え、どういうとこ?」

「長さが全編で30分少々だから、時間取られなくてすむ」

「…それ、間違いなく3倍速で観てるよね?」


第4景【鈴木と高木】

「ガニ股衛門とウチ股之助の二人が合体して正義の味方《美脚太郎》に変身する…という感じの漫画を書こうと思ってるんだけど、どうかな?」高木は長年温め続けているアイデアを鈴木に話してみた。

「ウン、なかなか良いんじゃないかな」

どうやら感触は好いみたいだ。

「ありがとう。よし、明日から頑張るぞ!」

「それはつまり…今日は頑張らないと、そういう事かい?」


第5景【石井と山下】

「非常に言い難い事なのだが…石井さん」

「…はい」

とある病院の診察室。山下医師が石井という患者に向かって重たい口を開いて語り始める。

「石井さん、アナタの中には5つの人格が暮らしているのです」

「それってつまり、5重人格という事ですか?」

「そう。山崎と佐藤と田中と鈴木と高木…その5人です。しかし、それ自体は過去に症例がない事もない。問題はまた別のところにあります」

「…どういう事でしょう?」

山下医師は机の表面でボールポイントペンの尻をカチカチいわせながら先を続けた。

「通常、多重人格というのは一つの体の中で人格が複数に分裂して互いに入れ替わるのですが、アナタの場合は人格が分裂するのに伴って体までもが分裂してしまう。これは世界的にも例をみない大変珍しい症例です」

「確かに…言われてみれば、山崎と佐藤がリビングのテレビの前で話してたり、佐藤と田中が一緒にスターバックスで珈琲を飲んだり…そんな場合を覚えてます」

「多細胞生物である人間が分裂する。これは凄い事ですよ。単細胞生物の良いところを取り入れた、そのように考えてみては如何でしょうか?」

「いや、しかし先生、私はやっぱり石井で居たいのです。だってそれが本来の私の姿だから…」

「そうでしょうか?」

「え?」

「本来の私の姿、果たしてそんなものが本当にあるのでしょうか?」

山下医師の言葉に石井が顔をしかめる。

「難しい事はよく判りまけんけど、私は出来ればもう分裂したくないのです。先生の力でなんとかして分裂を抑えて欲しいのです」

必死に懇願する石井に山下医師は力のない笑みで答えた。

「それは…難しいのです。と言うのは…」

「…と言うのは?」

「と言うのは、つまり、私もアナタから分裂した人間の一人だから
…」

旅にたつ

宇宙のほんのひと欠片

細胞壁を

突破して。


ー松尾ミトコンドリア芭蕉ー


《終わり》。




【やや改訂】そしてUFO は謎の駄洒落と変な格言を言い残して飛び去った。

話題:映りこんだ景色


もしも、お釈迦様が車を運転したとしたら前の車とはどれぐらい距離をとりながら走るのだろう?

つかず離れずのまったりとした安全な距離感覚。

それを仏教徒は「シャカん距離」と呼びます。

仏教徒から仏京都へ。

清水の舞台から飛び降りる…

確かにそれは凄い事でしょう。

しかし!

しかしかしかし!

鹿内孝とたかたかし!

清水の舞台に飛び上がる…。

そちらの方が遥かに凄いのです。

覚悟だけでは清水の舞台に飛び乗る事は出来ません。科学力と綿密な計算、或いは超人的な自己鍛練による驚異の跳躍力、どちらが必要となるのです。

そんな超科学力を持つ宇宙人の乗る
UFO とのコンタクト。

ああ言えば…こう言う。
ああ言えば…交遊。
ああ言えば… for you.

UFO for you .

そんな宇宙人の血液型は…

アダムスキー型 。
葉巻型。
シャンデリア型。

等々…。

そして、コンタクトを終えたUFO はピュイーっと清水寺から飛び去ったのです…。





粉雪舞う成人式の恋物語(R 98指定作品)。


話題:恋愛


もしも明日の成人式に雪が降ったなら、その時こそ僕は、彼女にこの想いを告げるんだ…。

成人式の前の日の夜、翔也はそう心に決めました。

ところが、いざ迎えた成人式の朝は気持ち良いぐらいに晴れ渡る冬の青空で、翔也は少しがっかりしていました。

今年成人になる翔也は、名前こそ如何にも現代の若者という感じですが、名前以外の部分はとても古くさい男でした。

そんな彼が心中、密かに想いを寄せていたのが、彼曰く“学園のマドンナ”である同じ高校のクラスメイト、二ノ宮綾乃でした。

もしも翔也が小学生の頃からモヒカン頭で町を闊歩するような子供であれば、とっくのとうにコクっていた事でしょう。しかし、武者小路実篤的な彼にとって高校の三年間という時間は余りにも短すぎました。せめて高校が四百年あれば…。高校四百年生の夏休み頃にはどうにか告白出来ていたかも知れません。

彼のような人間が告白を断行する為には、何かしら背中を押すようなきっかけが必要でした。そして彼は成人式をそのきっかけにしようと思いました。でも、それだけではまだ押す力が弱い。もうワンプッシュ欲しい…そこで彼は更にもう一つ条件をつけくわえました。

そう、それが“成人式に雪が降る”というものです。

しかし、冬の冷たい空は彼の背中を押してはくれませんでした。彼は肩を落としながら、成人式の会場へと一人寂しく向かったのでした。

会場である地元の公会堂は、振り袖姿の女性や紋付き袴姿の男性など晴れやかな顔をした多くの新成人たちで大賑いしていました。

空は相変わらず晴れ渡っています。どうやら告白の願いは永遠に叶いそうにありません。翔也は思っていました…彼女の顔だけ見て帰ろう、と。

ところが

そんな彼が、前の方に固まっている新成人の集団の中に二ノ宮綾乃の姿を見つけた時、それは起こったのでした。

澄み渡る睦月の青空から、はらはらと雪のひとひらが舞い降りてきたのです。

手のひらで受け止めた雪はさらさらとしていて、どうやら粉雪のようでした。

そして、気がついた頃にはそれは積もりそうなくらいの降り方になっていたのです。

空が弱気な僕の背中を押してくれた…。彼は失いかけていた勇気を振り絞り、二ノ宮綾乃の元へと歩き始めました。

ところがところが

その時、急に空が暗くなったのです。それは太陽が雲に遮られたというレベルの物ではありません。一つの町全体が影に覆われてしまったかのような暗転です。

突然の出来事に驚いた会場の新成人たちが一斉に空を見上げます。もちろん、その中には翔也もいました。

彼らがそこに見たもの。

それは、冬の虚空に浮かぶ“巨大な顔”でした。そして巨大な顔には巨大なモジャモジャ頭がついていました。巨大なモジャモジャ頭の顔は空高くからギョロっとした目玉で成人式の会場を覗きこんでいます。

空にいきなり現れた巨大な頭に皆が呆気にとられていると、頭の両側から更に巨大な二本の手が現れました。そして、その二本の巨大な手は巨大なモジャモジャ頭をもしゃもしゃと掻き始め…モジャモジャ頭からは吹雪のような粉雪が…。

それを見た時、新成人たちは全てを理解しました。

これは粉雪ではなく、謎の宇宙巨人の頭から出たフケなのだと。

翔也はもうどうして良いのか判らなくなっていました。確かに空は彼の背中を押してくれました。しかし、明らかにこれは押し過ぎです。

ストーリー的にも決してあってはならない“謎の宇宙大巨人の出現”に、会場の新成人たちは、それぞれの友人や親たちに一斉にメールを送信していました。

[俺らの未来…オワタ。Ωrz]

ところがところがところが

そうは思っていなかった新成人が一人だけいたのです。

翔也のケータイに、フランク永井の“おまえに”のメロディが流れます。メール着信のお知らせです。

翔也がメールを開くと、そこには…

[これ以上に最高の告白タイミングは無いと思いますことよ♪]

送信元は二ノ宮綾乃となっていました。

綾乃は翔也の心などすっかりお見通しだったのです。何故なら彼女のもう一つの顔は、FBI 直属の高校生プロファイラーだったから…。そして、彼女は彼女で心に決めていた事があったのです。

もしも成人式の日に何かバカバカしい事が起こったら…その時は、私が翔也の背中を押してあげよう、と。

綾乃は空の巨人に向かって、ありがとうと心の中で呟いていた。

ありがとう…宇宙の…
金田一耕助さん。

そう、モジャモジャ頭に吹雪のようなフケといえば、これはもう金田一耕助以外には居ない事を彼女は既に看破していたのでした。


美しい粉雪のようなフケの降りしきる中、メールの意を悟った翔也が綾乃の元へと駆け寄ってゆく…。

そして、ついに翔也は綾乃に告げたのでした。

「“これ以上に最高の”という表現は日本語としてどうかと思うけど…好きです」と。

そんな二人を祝福するかのように、空では、スクランブル発進した航空自衛隊のヘリコプターが宇宙巨人の巨大なモジャモジャ頭に向かって、フケを抑えるシャンプーやリンスを次々に打ち込んでいました…。


【終わり】

新成人の皆様…

本日はおめでとうございました♪(←こんなに説得力のないオメデトウも珍しい)。


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