話題:創作小説


もう何十年も前の冬の夜の話なんだけど、ちょっとだけ聞いてくれないかな?

そうか、うん、有り難う。

或る冬の夜、当時小学校の六年生だった僕は、町の小高い場所にある公園のベンチに寝そべって冬の夜空を見上げていたんだ。

毎週月曜日と火曜日に通っていた学習塾の帰り途で、時間は十時を少し回っていたと思う。とにかく寒い夜だったな。

そんな息も凍るような冷たい冬の夜に公園のベンチなんて場所にいたのには勿論ちゃんとした理由があってね。まあ、いかにも子供らしい単純な理由なんだけど、つまり、その夜、僕は塾の統一模擬テストで見事に0点を取ってしまったんだ。

親は採点の済んだ答案用紙が今夜戻ってくるのを知っている。0点の答案用紙を持って家へ帰りたくなかった僕は、塾と家の途中にある公園で、親にどう謝ろうか、一人であれこれ思い悩んでいたんだ。

背もたれのある木のベンチは、寝そべると丁度背もたれの部分が冷たい夜風を遮ってくれるから少しだけ暖かく感じた。そして僕は何となしに、寝そべったまま冬の夜空に向かって0点の答案用紙を突きだすように量腕を伸ばしたんだ。

空気の冷たく澄んだ冬の夜空。
星がいっぱいの夜空。
夢のように美しい夜だった。

でも、伸ばした腕の先にある答案用紙は相変わらず0点のままで、僕は途端に夢から醒めてしまい、またあれこれと思い悩み始めていた。

そうしたまま、どれくらい経っただろう…

突然、夜空に浮かぶ星の一つがベンチで寝そべる僕に向かってピューと一直線に流れ落ちてきたんだ。そして、星はそのまま僕の答案用紙に音も立てず吸い込まれるようにぶつかったのさ。

信じられないだろうけど、本当の話だから。それに、正直、これくらいで驚いて貰っていては困るんだ。と言うのは、これから先の話はもっと信じられないものだろうからね。

じゃあ、話を続けるけど、いいかな?


その、星を一つ吸い込んだ0点の答案用紙は、次の瞬間、1点の答案用紙に変わっていたんだ。

0点の答案用紙は実は白紙答案だったのだけれど…何時の間にか白紙の解答欄に正解の答が一つ書き込まれていて、そこに赤い丸印がつけられていた。つまり、採点されてたって事。

狐につままれたような気持ちだったけれど、正直、それよりもラッキーっていう気持ちの方が強かった。そして、思った。もっと星が降らないかな、と。

「星に願いを」というやつさ。

何となく願いが叶いそうな気がした。そしたら本当に叶った。

夜空に散りばめられた星という星が僕に、いや違うな、僕の答案用紙に向かっていっせいに降り注いで来たんだ。

それはそれは凄い光景だったさ。何せ、数え切れない程の光の矢が一直線に僕に向かって降って来たわけだから。これはちょっと、とても言葉では言い表す事は出来ないな。

そうして、冬の星座を全て飲み込んだ僕の答案用紙は、0点から100点になって、ベンチから跳ね起きた僕は白い息を吐きながら猛然と自転車を飛ばして家へ帰った。家では、僕の帰りが少し遅いのをちょっと心配していたみたいだけど、僕が100点の答案用紙を見せると、そんな事は軽く吹き飛んでしまった。

ほんと、ラッキーな夜だった。

でもね、今だから話すけれども…



《後編へ続く》。