話題:妄想を語ろう


【PM 12:00】

『商店街のプロムナードで鬼が暴れている』と云う通報を受け、我々【虚構警察】はすぐさま腰に吉備団子をぶら下げて、いざ鬼退治へと現場に駆けつけた。

ところがである。

確かに鬼は居たが、どうにも様子がおかしい…。そこで、鬼に「なんだ、チミは!?」と変なオジサンっぽく職務質問をしたところ…

それは、鬼ではなく“生ハゲ”である事が判った。

事情を聴いてみるとどうやら、お正月の商店街イベントで獅子舞の出し物をするつもりが、業者の手違いで“生ハゲの衣裳”が送られて来てしまい、仕方なく“生ハゲ”に変更したらしい。

…犯罪とは言えないので逮捕は出来ないが、顔が怖すぎるのも事実であるので、我々は生ハゲのお面に対し厳重注意を与え、お供の犬、猿、雉と共にその場を後にした。


【PM 15:30】

虚構署に差出人不明の郵便物(小包)が届けられ署内が騒然となる。

危険物の可能性があるので、マジックハンドを使って慎重に小包を開いてゆくと、中には一枚のDVD ディスクが入っていた。犯行予告が納められているかも知れない…我々は緊張しながらディスクを再生した。すると…

『未来の俺達!明けましておめでとう〜♪』画面に映し出されたのは去年の我々の姿だった。

そう言えば去年の元日…「一年後の自分達に“アケオメ”のビデオレターを差出人不明の不審物みたいな形で届けてみよう」という、言わばセルフドッキリ行ったのだった。結果、誰もその事を覚えておらず、セルフドッキリ大成功。

『あの頃の未来に♪僕らは立っているのかな♪夜空ノムコウにはモー娘が待っている♪』

…なんだこの寒い替え歌は。でも去年はたぶん、これが面白いと思っていたのだろう。我々は画面の中で陽気にはしゃぐ去年の自分達を厳重注意処分とし、デッキの停止ボタンを押した。


【PM 18:20】

果たして、あの頃の未来に僕らは立っているのだろうか…

DVD を観てから全員が深く考え込んでしまい、誰も受話器を取ろうとしない。虚構署の署員たちはこう見えて意外とナイーブなのである。

我々は、取り敢えず[シャンプーのナイーブ]を厳重注意処分とし、窓をそっと開けた。

冬の風の匂いに混じって鰻のかば焼きの匂いがした。我々は心の中のウナギ犬に厳重注意を与え、そっと窓を閉めた。


【PM 21:30】

『詐欺にあった!詐欺師は捕まえてあるのですぐ来て下さい!』と云う通報を受け、我々は通報者が指示した某繁華街の路地裏へと急行した。

『こいつです!こいつに騙されました!』

通報者と思われる男が缶ジュースの自動販売機にしがみついている。

『この人、私が充実野菜のボタンを押したのに、お汁粉を渡してきたんです!これって立派な詐欺ですよね!?』

我々は通報者の主張を確かめる為に、自販機の充実野菜のボタンを押してみた。果たして、男の言うようにお汁粉が出てくるのか?

ところが、お汁粉は出てこなかった。つまり、通報者は嘘をついている。

我々は通報者を[虚偽の通報]と[充実野菜という顔ではない事]に対して厳重注意を与え、その場を後にした。

あの自販機は我々が充実野菜のボタンを押してもお汁粉を出さなかった。いや、正確には何も出さなかった。ならば、問題は無いだろう。


【PM 23:59】


我々は、例の自販機事件で、お金を入れずにボタンだけを押していた事に遅まきながら気づいた。

そして、テレビのニュースで日体大が三十年ぶりに箱根駅伝を制覇したのを知った…

と云う事はつまり…

我々が完璧に元日だと信じ込んでいた今日は、実は1月3日だった。

世の中に“完璧”は有り得ない。
恐らくは神様が戒めの意味も含め、改めて我々にそれを教えようとしたのだろう。


――――――

現実の事件の裏側には必ず、それと一対になるように虚構の事件が存在する。それを追い続けるのが我々【虚構警察】なのである。


「名もなく地位なく姿なし。されど、この世を照らす光あらば、この世を斬る影もあると知れ」

―服部半蔵(伊賀総帥)―


「ナボナなくチーカマなく姿焼きのイカもなし。されど、この世を照らすフレッツ光あらば、この世を斬る脚気(かっけ)もあると知れ」

―服部1/2蔵(はんぞう。虚構警察署署長)―。


《終わり》。