話題:創作小説

焼けつくような太陽と容赦なく吹きつけてくる砂塵。果てどない砂漠の真ん中で、その旅人は今まさに力尽きようとしていた。キャラバン隊とはぐれて数週間、ついに食糧も尽き、水も尽きた。もはや歩く力もほとんど残されてはいない。

(アア、私の儚い人生はついに此の果てなき砂色をしたキャンパスの上で潰えてしまうのだ…)

最期の思考を終え、旅人は砂の上に突っ伏した。これにて我が人生は一巻の終わり…

ところが、その時、突如として旅人の前に全身を白い胴衣に包んだ不思議な老人が現れたのだった。老人の手には?の形をした長い木の杖が握られている。

「…これが世に聞く砂漠の幻か」

旅人は薄れゆく意識の中でそう思った。しかし…

老人「いや、わしは旅の仙人じゃが…何かお困りかな?」

それは幻ではなかった。まったく何という展開!行き倒れる寸前で仙人に出逢う確率は相当に低いだろう。降って湧いた希望にやや正気を取り戻した旅人は、先ず類い稀な幸運に感謝した後、仙人に事の経緯を話し、そして当然の如く、こう言葉を結んだのだった。

「どうか私を、この非情な砂の大地から救いだして下さいまし」

すると仙人は全てを悟ったかのようにウンウンと頷きながら、こう語った。

老人「では、わしの仙術でお前を砂漠の外の街まで瞬間移動させてやろう」

「嗚呼、何と有り難い!! 仙人さま、よろしくお願い致します」

老人「うむ。では、始めるが…体にかなりのG が掛かる故、目をしっかりと瞑り、歯をグッと食い縛るのじゃぞ」

旅人は云われた通りに目を瞑り歯を食い縛った。

老人「では参るぞ」

「はい」

老人「ムニャムニャムニャラムニャラムーニャラムニャーラ…」

仙人が怪しげな呪文を唱え始める。瞬間移動の経験がない旅人は来るべき衝撃に備え身をギュッと硬くした。

老人「ムニャーラ…ホイッ!!」

くる!!

と思った、その瞬間!!

ドッコォーーーーン!!

虚空から落ちてきた巨大な金ダライが旅人の頭を直撃した。

老人「…すまん。失敗じゃ」

「…へっ?」

老人「我ながら何たる未熟。崑崙山で修行をやり直さねばなるまい…さらばじゃ、旅人よ」

そして仙人は、少し顔を赤らめながら手近な雲に乗り、ピュイーッと飛び去ってしまった。

(今のは…何だったんだ?)

落下直後は金ダライの衝撃によりハラホロヒレハレ〜♪となっていた旅人だったが、時間が経つにつれ、どうやら逆に金ダライの衝撃で意識がシャキンとしてきたようだった。

旅人は再び、何処まで続くとも知れぬ砂漠を、金ダライを抱えて歩き始めた。

その数日後…

一時は仙人ショックで気を取り戻した旅人に再び限界が訪れていた。

(今度こそ、もうダメだ…)

ところが、ここでまた旅人に一つの奇跡が訪れたのだった。

霞む砂漠の風景の先に、小さいながらもオアシスを見つけたのである。オアシスの真ん中には公園の噴水程度の大きさながら湖があり、その周りには数本の椰子の木が立っている。

(た、助かった…)

旅人は最期の気力を振り絞り、オアシスに辿り着くと、湖に顔を突っ込んでガブガブと水を飲み始めた。水はやや生ぬるく、何故か少しゲータレードの味がした。

取り敢えず一息ついた旅人は、これから先の事を考えて始めた。このままオアシスで砂漠の行商人たちが通りかかるのを待つか、それとも、体力が回復したのを機に一気に砂漠からの脱出を目指すか…。

旅人が思案に暮れていると、不意にギリシア竪琴の美しい音色が響き渡り、湖から煌めく無数の小さな光が立ち昇った。

(これはいったい!?)

〜後編へ続く〜。