話題:女子って怖い とおもった瞬間
 
件の事件が起こりましたのは、先週の木曜だったでしょうか…いえ、一昨日だったか…ああ、違います違います…本日も本日、ジャスト本日の御話で御座いました。

夜半と云うにはまだ少し早い夕刻の七時、すっぽりと夕闇の暗さに包また空に、日に日に秋めいてゆく季節の歩みを感じながら小雨の降る街をトボトボと歩いていると、

ちょうど交差点に差し掛かったところで、向こう側から渡ってきた四人組の妙齢の女性とすれ違ったので御座います。

折しも運悪く、その女性たちが横断歩道を渡ると同時に信号機が赤色へと変わりましたので、私はその場に立ち尽くし再度信号機が青色へと変わるのを待つより他なかったので御座いますが…件の服装や眉毛の長さ、更には鎖骨の形状などから恐らくはビジネスガールと思われる四人組の女性たちは交差点を渡り切った所で何やら立ち話のようなものを立ちっぱなしで始めたので御座います。

立ちっぱなしで立ち話。

何とも御寒い韻の踏み方でお恥ずかしい限りなのですが、兎にも角にも、そのような形で、私とビジネスガール4…略して“ビジー4”が横に並び立つ格好となったので御座います。

それで、聴くともなしに“ビジー4”の話を聴いていると、どうやら四人は会社の同僚で親睦を兼ねた食事会の帰りであるらしい。そして、四人の内、三人は駅方面へ、残る一人は住宅街方面へと別れてゆくのですが…

その別れ際の事です。

「お疲れさま〜」「じゃ、また明日ね」「気をつけて帰ってね〜」と手を振る三人に対し、ただ一人逆方面へと向かう女性が『ニャア〜〜♪』と鳴いたので御座います。

決して私の聴き違いでは御座いません。彼女は確かに『ニャア♪』と猫よろしく鳴いたので御座います。それが証しに、三人組の方も一瞬茫然とした顔つきをした後、「え、なになに?」「なんで猫になるの?」などと笑いながら突っ込みを入れていたので御座いますから…。

『いや、違う違う!“じゃあ♪”って云おうとしたら“ニャア♪”って云っちゃったの!』

慌てて取り繕う彼女に、三人組は「ニャア♪」「ニャア♪」「ニャア♪」と猫式の挨拶で応えたので御座いました。

それは端から見れば、単なる云い間違いが引き起こしたニャンとも微笑ましい光景の一つで御座いましょう。

しかしながら、私のような、増刊号から《ムー》を読み捲っていた手練れの目はそうそう誤魔化せるものでは御座いません。

あの『ニャア〜♪』こそが、彼女の本当の姿…

つまり、彼女は【化け猫】に相違ないので御座います。



[奥山に、猫またといふものありて、人を食ふなると人の言ひけるに、山ならねども、これらに も、猫の経上りて、猫またに成りて、人とる事はあ なるものをと言ふ者ありけるを、何阿弥陀仏とかや、連歌しける法師の、行願寺の辺にありけるが聞 きて、独り歩かん身は心すべきことにこそと思ひけ る比しも、或所にて夜更くるまで連歌して、ただ独 り帰りけるに…]


とは、彼の有名な【徒然草】第八十九段に有る一節。

去りゆく彼女の“やや猫背”の後ろ姿を眺めながら、私はいよいよ確信していたので御座います。

彼女こそは、徒然草の世界から平成の街角に飛び出してきた現代の猫又(ねこまた)なのだと…。



では…(ねこ)また。三( ゜∀゜)