話題:突発的文章・物語・詩
ある時、Aという男が旅先の小さな骨董屋で非常に珍しい壺が売られているのを見つけた。それは歴史的にも美術的にも大変価値ある代物だったが、何とも焦れったい事に、その壺には値札が付けられていなかった。
しかし、Aは金持ちだったので多少ふっかけても大丈夫だと云う自信があった。
A 『もし、ご主人。その壺を五千万円で私に譲って貰いたいのだか…』
ところが骨董屋の主人は、首を小さく横に振った。
やはり、この主人は壺の価値を知っている…A はそう思った。
A『判った。では一億円でどうだろう?』
相場価格で云えば八千万円ぐらいが妥当なところ。そこに二千万円の上積みだ。
ところが、主人はまたもや首を横に振った。
どうやら、余程がめつい人間らしい。
A『ならば、一億二千万出そう。それなら文句なかろう』
だが、やはり主人は首を横に振るばかりだった。
如何に金持ちとは云え、単なる旅先の道楽でこれ以上出すのは厳しい。A は悔しさを滲ませながら、その骨董屋を後にした。
それから二週間が過ぎた、ある日の事。
A は久しぶりに訪ねたBと云う友人の家で、驚くなかれ、なんと、例の壺が飾られているのを見たのである。
A『ところで、その壺はどうしたんだね?』
B『ああ、これか。いや、先週ちょっと旅行に行ったんだが、その時に小さな骨董屋で見つけてね…それで買って来たと云うわけさ』
A は驚くと同時に納得のいかないものを感じた。このB と云う男はA と違って全く金持ちではないのだ。
そこで、AはBに尋ねてみた。
A『それで、君はいったい幾らでその壺を手に入れたんだね?』
するとB は涼しい顔でこう云ったのだった。
B『そうだな、確か五千円ぐらいだったと思うけど…』
五千万ではなく五千円…A は頭を抱え込んでいた。
何故、私が一億二千万出すと云っても売らなかった物をB にはたったの五千円で売ったのか?
その時、Aは思い出した。
Bは上野のアメ横界隈で生まれ育っていて、“値切りの交渉”には非常に長けていた事を。
もしかすると、今回も巧みな交渉術を使ってあの偏屈そうな骨董屋の主人を売る気にさせたのかも知れない。
そこでA は尋ねてみた。
A『で、一つだけ教えて欲しいのだが…』
B『何だい?』
A『君はあの主人に何と云って譲って貰ったんだい?』
するとB は、事もなげにこう云った…
B『ああ…“Could you give me a vase that sold for $ 50
?”…だったかな』
【終わり】
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え〜…まあ、ジョークを解説すると云うのは、およそ人類が通常の生活の中で行う行為において、最も虚しいものの一つだとは思いながらも、念のため一応、 一言だけ解説を。
つまり、この話は
二人の旅は海外旅行であり、骨董屋と云うのは外国(英語圏)の店、当然、主人も外国人であり、A の交渉は“日本語”であっため、主人には全く理解出来なかったと…まあ、そういう話なのです。
骨董屋の主人が首を振ったのも(貴方が何を云ってるのかサッパリ判りません)と云う意味であり、値段の問題ではなかったと云うわけです┐('〜`;)┌。