幻の前衛文学『It is that』〜渡る世間は代名詞ばかり〜(前編)。

話題:創作小説


とある晴れた日、俺がいつものようにブラブラと街をほっつき歩いていると、何やらどこかで見かけたような顔が前から歩いて来るのが見えた。

念の為に言っておくが、“顔が単独で”歩いて来たのではない、“そのような顔をした男”が歩いて来たのだ。

しかし、それはあくまで俺が“そのような気がする”というだけであって、はっきりとした確信がある訳ではない。ましてや、アイツは誰ソレだ等と断言する事は無理な相談だった。いや、それどころか見ず知らずの人間だという可能性すらあるだろう。

ところが、その男は私に気が付くなり途端に笑顔になって『あ、お久しぶりです』と声を掛けて来たともなれば、これはもうアレである、ソイツは俺を知っているのだ。

『ああ、久しぶりだね』 

つい反射的に答えた俺だが、間近で眺めてもソイツがいったい何処のどいつなのか、まるっぽ思い出す事が出来ない。

それでも、コイツが誰なのかを何とか思い出そうと俺は必死で記憶の糸を手繰った。

アイツでもアイツでも、アイツでもない、ましてやアイツではないし、アイツとは明らかに違う…唯一、アイツである可能性はギリギリ残っているが…ちょっと違う気がする。確かにコイツ、アイツにちょっと似てはいる。だが、何処がどう違うというより、あの辺もこの辺もその辺も、全体的にコイツとアイツの雰囲気が違っていた。恐らく、コイツはアイツでもない…。

しかし、そんな俺の困惑をよそにソイツは尚も親しげな感じで話し掛けて来たのだった。

『本当にお久しぶりです。もしかして、あの時以来ですかね?』

あの時…。

コイツはいったい“どの時”の事を言ってるのだ?

黙り込む俺を見てソイツが言う。

『スミマセン…確かに、こんな街のド真ん中でする話じゃなかったです。ゴメンナサイ』


《続きは追記に》…。

 
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暁の大事件「トイレその後に」。

話題:(´・ω・`)セボーン♪


世間を揺るがした『水島博之誘拐犯』『Kコーポレーション全社員同時失踪事件』『草壁警部失踪事件』、この3つの事件の裏で密かにもう1つ、とんでもない大事件が勃発していた事を皆さんはご存知だろうか?

いや…誰一人として知る者はいるまい。

何故なら、その事件は誌面の上ではなく、現実の世界で起こったものだからだ。

それは『誘拐犯』のストーリーが佳境に入った或る朝、いや、陽も昇らぬ未明の事だった…

スヤスヤと天使のような顔で眠る私のロバの耳に、「ねぇ!ちょっとちょっと!」、何やら切羽詰まったような声が届いてきたので、薄ら目を開いて声のする方を見てみると…私のベッドのすぐ脇に母親らしき生物の姿がありました。但し、この時点ではまだハッキリと確認した訳ではないので、あくまでも“未確認母親生物”です。もしかしたら母親に化けた父親かもしれません。

しかし、更に目を開いて眺めてみると、どうやらそれは、本物の母親であるらしい事が判りました。

それにしても、いったい何時なのだろう?

私は枕元に置いてある携帯電話を手に取りました。しかし、時刻表示が見えません。そこでスタンドライトを点けて確認してみると…それは携帯電話ではなく“午後の紅茶”のペットボトルでした。道理で時刻表示が見当たらないはずです。

改めて現在の時刻を確認してみると、早朝も早朝の午前4時半です。

こんな時間に起こされるとは…思わず私は、自分がニワトリだった頃を思い出していました。

ところが、そんな私のクックドゥードゥルードゥーな回想を断ち切るかのように、未確認母親生物から母親にランクアップした人が意味不明な事を言ったのです。

「トイレにキャップ流しちゃった」

なに!?キャップを!?

しかし、キャップと言っても色々あります。記者クラブなどのリーダー。野球帽などのハットではない帽子。劇団四季のミュージカル。…あ、最後のは“キャット”でした。

それにしても、まさか、トイレに新聞記者を流したなんて事は…

青ざめた顔で飛び起きる私。余りに勢いよく跳ね起きたので、一度天井にぶつかってから床に着地するという極めて難易度の高い起き方を披露しながら、改めて事の次第を問いただしてみると、どうやら母親は、スプレー式芳香剤のキャップを誤ってトイレに流してしまったようです…。

《続きは追記に》

 
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ふしぎなポケットのうた。

話題:歌詞


ポケットの中にはビスケットが一つ♪
ポケットを叩くとビスケットは二つ♪
もひとつ叩くとビスケットは三つ♪
叩いてみるたびビスケットは増える♪

そ〜んな不思議なポケットが欲しい…♪
そ〜んな不思議なポケットが欲しい…♪


ずーっと昔から、たくさんの人に愛されて歌われ続けている童謡『ふしぎなポケット』。アナタも知っているでしょう?

そして、歌詞の中の子どものように「こんな不思議なポケットがあったらなあ〜」、そんなふうに思った事もきっとあるはず。

でもね…

それが、あるのです。

不思議なポケット。

しかも!実はそれ、アナタがいつも着ている服やズボンについてる見慣れたポケットだって知ってました?

さあ、論より証拠。

今すぐポケットにビスケットを一つだけ入れて、ポッケをか〜るくポンっと叩いてみてください…。

ほら、サン、ハイッ♪


ポケットの中にはビスケットが一つ♪
ポケットを叩くと…ポケットは二つ♪
もひとつ叩くと…ポケットは三つ♪

あれれ?

なんかおかしいですね〜…。
じゃあ、気を取り直してもう一度。

ハイッ♪

もひとつ叩くと…ポ〜ケットは四つ♪
しつこく叩くと…ポ〜ケットは五つ♪
叩くとひたすら…ポケットばかりが増える♪
ポ〜ケットは増〜えるけど…ビスケットは増えない♪


あららら…。

ビスケットはまったく増えずに、ポ〜ケットばっかり増えています。

これはもう、ポケットというよりポケッツです。こんなにポケットだらけになって何をしようというのでしょう。いけません、いけません。

どうやら…このポケットは、私たちが望む不思議なポケットではないようです。

それじゃあ、仕方ないので別のポケットを叩いてみましょうか。そっちが本物の不思議なポケットかもしれません。

では、いきますよ〜♪


《続きは追記に》

 
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Lunatic言語ポエム『月と無我夢中』。

話題:シュール


と或る、とてもスッとぼけた深夜…とは云っても…スッと、ぼけた深夜ではなく、スッとぼけた深夜の方…です。

「無我夢中…無我夢中…竹脇無我に無我夢中…ガム噛む竹脇無我に無我夢中…ガム噛む竹脇無我に無我夢中のガム噛む竹脇無我に無我夢中…」

そんな言葉を、無我夢中で呪文のように唱えながら歩くスッとぼけた人がいました…とは言っても…スッと、ぼけた人ではなく、スッとぼけた人…の方です。

そんな「竹脇無我に無我夢中」と無我夢中で唱える人を私は無我夢中で眺めていました。

はっ!

視線を感じると、それはそれは大きなスッとぼけたお月様が、私とスッとぼけた人を無我夢中で眺めているのが見えました。

ぬーん。

むーん。

「竹脇無我に無我夢中」と無我夢中で唱えるスッとぼけた人を無我夢中で見る私を無我夢中で眺めるスッとぼけたお月様と、そのお月様を無我夢中で見上げる私‥の事も無我夢中で眺めるスッとぼけたお月様‥を無我夢中で見返す私に「竹脇無我は無我夢中」と無我夢中で唱えるスッとぼけた人の声は、何故かもう聴こえてきません。

いつの間にか、無我夢中の人は居なくなっていたのでした。

どうやら、「竹脇無我に無我夢中」と無我夢中で唱えるスッとぼけた人を無我夢中で見る私を無我夢中で眺めるスッとぼけたお月様と、そのお月様を無我夢中で見上げる私‥の事も無我夢中で眺めるスッとぼけたお月様‥を無我夢中で私が見返している間に「竹脇無我は無我夢中」と無我夢中で唱えていたスッとぼけた人は何処かへスッとぼけ去ってしまったようです…とは云っても今度は逆に…スッとぼけ去ったのではなく…スッと、ぼけ去ったようでした。

(ストレート)ぬーーん!

(スパイラル)むーーん!

そうです。
うそです。
そうです。
うそです。
そうです。
うそです。
かわうそです。
わかそうです。
かわうそです。
わかそうです。
わかそうなかわうそです。
わかそうなかわうそです。
かわいそうなわかそうなかわうそです。
かわいそうなわかそうなかわうそです。
可哀想な若そうなカワウソです。 

私とお月様は、可哀想な若そうなカワウソのように「無我夢中」の持って行き場をすっかり失ってしまってしまってしまってシマシマでシマシマなシマウマのシマシマをシマウマのシマイが姉妹で縞馬の縞々をしまい込んでしまってしまったようでした…。


(エステティック)ぬーーーん!!

(コスメティック)むーーーん!!


仕方なく私は自分の右のお尻にある空気栓を自分で抜き、ヘナヘナプシューと、元のしぼんだ風船人形へと戻りました。

プシュー。

シュルシュル。

しかし!

往生際の悪いスッとぼけたお月様は、それでも、空から落ちないように暗幕のような夜空に無我夢中でしがみ続けていたのでした。

そしてそれが、あの夜、ただ一人だけスッとぼけていなかった私が、無我夢中で見続けていた物の全てなのです……。 


《オワリ》。

 

誘拐犯‐A kidnapper【エピローグ】‐The paper says that‥。

話題:連載創作小説


【水島博之誘拐事件】、そして【Kコーポレーション全社員同時失踪事件】の発生から、ちょうど一週間が過ぎた水曜日の朝、限りなく夜に近い明け方の四時半少し前。

いつものように原付バイクを走らせ、朝刊を配達していた新聞配達員の竹本洋治(26歳)は、或る一軒家の前でバイクを停めると傍目からもはっきりと判るほど、明らかにウンザリとした表情を見せた。

なんだ、今日もかよ…。 

竹本がボヤくのも無理はない。その家の玄関、門柱に備え付けられた赤い箱型の郵便ポストは、詰め込まれた新聞の山で溢んばかりの状態になっているのだ。

配達した新聞が取り出されないまま、かれこれ、もう一週間になるだろうか…。

全く…。旅行に行くなら行くで、その間の配達を停止するよう、サクッと電話一本入れてくれたら良かったのに。

どうやら新しい新聞はポストに収まりそうもないので、仕方なく、すぐ下の塀に立てかける格好で新聞を地面に置いたあと、苦々しげな表情で郵便ポストの上の【草壁】と書かれた表札に目をやったのだった。

全く、一週間も家を放ったらかしにするなんて何を考えているんだろ?

だが、その考えは竹本の迂闊と言えた。

彼は知らなかったのである。正に今、自分が配っている朝刊に【Kコーポレーション大量失踪事件】に関連する記事として小さく載せられている、もう一つの不可解な失踪事件の事を…。




その竹本が朝刊を全て配り終えてから二時間以上が経った午前七時四十分の水島邸。

朝食を終えた隆博は、食器が全てキッチンへ運ばれて十分なスペースが出来たテーブルの上に朝刊を広げて読み始めた。息子の博之は少し前に学校に行くため家を出ている。そして佐知子は朝食で使った食器をキッチンで洗い始めたところだ。

あれから一週間。水島家には平穏な時間が流れていた…。


《続きは追記に》。

 
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