話題:連載創作小説


ここで再び話を元の時系列に戻そう。場所は水島邸、時刻は午後七時を少し回った辺りである。

誘拐犯との交渉の末、ようやく人質となっている息子の博之と直接電話で話すという念願が叶った水島夫妻であったが、その様子は明らかに普通ではなかった。

博之の口ぶりは、とても誘拐されている人間のものとは思えないものだったのだ。そして、何故か咎めるような口調で話す父親の隆弘に対し、人質の少年は微かに不満の色の滲む声で言ったのである。

(でもパパ、誘拐したのはこの人なんだよ。悪いのは誘拐犯、そうでしょ?)

小学生らしい単純な物言いではあるが、博之の言っている事は正しい。誘拐は許されざる犯行であり、誘拐犯は、例えそこに如何なる理由があるにせよ犯罪人である。そこに議論の余地はない。しかし…

父親の口から出たのは、思いもよらぬ言葉であった。

「…確かに、その人は悪い事をした。でも…そう“仕向けた”のは、博之、お前なんだろう?」

いよいよもって不可解な人質とその両親との会話。ここに至り、話の様相は完全に逆転していた。そして、この時点において妙な事が実はもう一つあった。言うまでもなく、それは“誘拐犯”の現在である。犯人は電話を代わる際、確かにこう言った筈だ、「少しだけだぞ」と。逆探知で居場所を知られる事を恐れる身としては当然の事だろう。…にも関わらず、博之と両親、つまり人質と家族の会話に犯人の横槍が入る気配が全くないのだ。

いったい犯人は、今どこで何をやっているのだろうか?

しかし、そんな謎をよそに人質の少年は平然と語り続けたのだった…。


《続きは追記に》。

 
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