話題:影

「翳りゆく時間(とき)の彼方には、必ず輝ける時間(とき)が待っているのです」

影のオジサンは、そう言いながら貼らないタイプの使い捨て懐炉(カイロ)を懐から取り出し、寒さで震える僕に投げて寄越しました。

「待てばカイロの日和あり…なんてな」

ありがとう。

真冬の空の下で出逢った影のオジサン。

でも、その使い捨て懐炉は、既にヌルくなり始めていた上、袋が少し破れてもいたのです。

やがて、懐炉の袋から零れ落ち続ける鉄粉が、日暮れの浜辺を見る見る内に夜香漂う黒鉄色に染めて行ったのでした…。