話題:写真詩

 
風もない薄曇りの午後の散歩道にハラハラと舞う枯葉の一枚がツイードの肩に落ちる迄

その、ほんの僅かな時間の中に瞳には映る事のない“小さな何か”があるような、そんな気がしませんか?


それは例えば



赤煉瓦や石畳のペイブメント(舗道)が、雨粒の落ちた所から途端に色が深く濃くなってゆくような‥

ホットココアに落としたクリームが、マーヴル状にゆっくりと乳白色の円を描きながら、やがてはショコラ色に混ざり合ってゆくような‥


何処かの家の深窓から漏れ聴こえるショパンのピアノ曲の、ちょうど半音階下ってゆく辺りのような‥


机の引き出しの奥で静かに眠る、出しそびれたセピア色の古い手紙を思い出した瞬間のような‥


夢の中でしか知らない遠い異国の教会の、午後3時を告げる鐘の音の空気に減衰してゆく音程のような‥


波打ち際に誰かが造った小さな砂の城が、日暮れの波に人知れず崩れ落ちてゆくような‥



そんなような


掴むに掴めない、手のひらに載せる事すらかなわない、瞬きしたまぶたの裏側にしか存在し得ない世界のような“小さな何か”があるとは思いませんか?


透明な水の中にブルーのインクを一滴垂らせば、水は青く染まってゆくけれども

水を増やして行けば、少しずつインクのブルーは薄まっていって

やがて水は元の透明に還ってゆくでしょう。

でも

瞳には映らないけれど、確かに、そこに青色の面影を感じとった時‥


私は初めて、


世界に優しく叙情されるのです。

 
 

◆追記に「どうでもあいフリートーク」

 
 
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